下板橋の居酒屋で、ささ身のようにレアな看板娘に舌鼓を打った
看板娘という名の愉悦 Vol.50
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
都内でも今ひとつ位置関係がわからないのが板橋区。しかし、同区民からは「板橋って意外と都心なんですよ」というセリフをことあるごとに聞く。
今回訪れた下板橋駅も巨大ターミナル・池袋駅から東武東上線でたった2駅。なるほど、ほぼ池袋と言っても差し支えない。

駅付近には「電車の見える公園」というものがあるが、電車ビューならすぐそばの跨線橋の方がオススメだ。

目指す居酒屋、「兎まい門(うまいもん)」は駅から徒歩1分。2009年にオープンしている。

店内を覗くと看板娘が働いていた。

新潟県柏崎市出身だと聞いて「越乃寒梅」(1合1000円)を注文。新潟市の南東部に蔵を構える石本酒造が明治40年に売り始めた老舗銘柄だ。

今回の看板娘は、大正大学表現学部で広告関係の勉強をしている21歳の望来(みく)さん。3年生なので、そろそろ就職活動に本腰を入れる時期だ。

この店では大学入学直後から働いている。
「入学式が終わった後に、たまたま両親と入ったんです。理由ですか? 兎のマークがかわいかったから」

柏崎では祖父が「栄寿し」という寿司とラーメンの店を営んでいた。地元では人気の店で、高校生の望来さんも時々手伝っていたそうだ。
「口数が少ない職人気質の人で、お正月とかに私の家に遊びに来たときは焼酎のお湯割に梅干しを入れて黙って飲んでいました。でも、そんなお祖父ちゃんが去年の秋に80歳で亡くなって。悲しいけど、私と妹の成人式を見てもらえたのはよかったです」
なお、ここ「兎まい門」の看板メニューは何といってもささ身の串焼きだ。

さっそく、生ビールとともに注文。

これがびっくりするほど絶品だった。ささ身はどちらかというと苦手なのだが、絶妙な焼き加減で、レバ刺しのような食感である。

串を焼くのはオーナーの三浦佑介さん(35歳)。美味しさの秘訣を聞くと、「特別なことは何もしていないんですが」と悟りを開いた禅僧のような回答が返ってきた。


さて、望来さんのことをもっと知りたい。まずは、昨年9月に撮ったというプリクラを見せてもらった。

変わった形のピアスも気になる。

「これは池袋パルコのセールで買いました。たしか、700円ぐらい。輪っかが好きなんです」
さらにネックレスは「ベビーリング」。彼女が生まれた時に小指にはめてもらったという思い出の品だ。
ふと、店内のテレビに目をやるとマツコ・デラックスが喋っている。
「そう、私、マツコさんに相談に乗ってもらいたいんですよ。就職のこととか。友達からは『広告系はあんまりいいイメージないよ』と止められていますが、マツコさんなら『そんなの、やってみないとわかんないじゃない』って言ってくれそう」
そんな悩める望来さんの趣味は飲み歩きと食べ歩き。


店に来ていた常連客にも望来さんについて聞いてみた。

奥さんが言う。
「あまりにもタイプすぎて、最初の頃は注文するだけで世間話もできませんでした。各テーブルをアルコール消毒するのも彼女の仕事なんですが、オーナーの息子さんがそれを真似するのもかわいい」
息子さんは6歳。常連客からは「ちゃんと拭かないと望来に怒られるぞ」とからかわれているそうだ。
トイレには客からのメッセージ帳が置いてある。「ゆーすけさん、みくちゃん、はるちゃん、いつもありがとう」という文字が目に入った。

ちなみに、「はるちゃん」というのはもう一人の看板娘だ。「みくちゃん」と「はるちゃん」は大の仲良しで、仕事終わりにしょっちゅう飲みに行っている。

さて、今宵もささ身のようにレアな看板娘を肴に美味しいお酒を飲んだ。お会計をしていただきましょう。読者へのメッセージもお願いします。

【取材協力】
兎まい門
板橋区板橋1-36-12 第二安原ビル101
電話番号:03-6794-5784
http://www.umaimon-shimoitabashi.com