乗りたかったのは、キブンが乗るクルマ Vol.260
2021.07.19
CAR

「見た目が勝負だと思って」選んだミニ・トラベラーは、世界最小のロンドンパブ

俺のクルマと、アイツのクルマ
男にとって車は名刺代わり。だから、いい車に乗っている人に男は憧れる。じゃあ“いい車”のいいって何だ? その実態を探るため「俺よりセンスいいよ、アイツ」という車好きを数珠つなぎに紹介してもらう企画。


■22人目■
阿部訓諭さん(45歳)

アベサトシ。ファッションデザイナー、パブマスター。名刺にはマジシャンという記載も。「パブでお客さま相手に喜んでもらうためで、大した手品はできません(笑)」。

現在コロナ禍のためキッチンカーに改造したミニ・トラベラーでのお酒の販売も行っている。Instagram:キッチンカー @ipcresstraveller


■モーリス ミニ・トラベラー■

ミニ・トラベラー

天才技術者アレック・イシゴニスが作った、世界的名車「ミニ」。そのホイールベースが伸ばされて荷室が備えられたのが「ミニ・バン」で、ミニ・バンをベースとしたワゴンがこの車だ。

登場したのは1960年。モーリスでは「ミニ・トラベラー」として、オースチンブランドからは「カントリーマン」として販売された。ミニ・バンと大きく違うのは、荷室部分にも引き違い式の窓が備えられたことと、ボディのサイドとリアに取り付けられたウッドフレームだ。


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コロナ禍のピンチを救う救世主に

阿部さんにとって、愛車は人生の救世主だ。

現在乗っているのはモーリスのミニ・トラベラー、購入した理由は「コロナ禍を生き抜くため」だという。バンパーの形にこだわり、1966年式のマークIを選んだ。

「1968年式からはマークIIになってバンパーが異なるんです」。女性スタッフも運転出来るようにとAT車を探し、ようやく見つけた木枠の腐っていない、程度の良いマークI。

「たぶん、世界最小の自走式ロンドンパブですよ」。

このミニ・トラベラー、日常使いのほか、なんとキッチンカーとして使っている。

東京・向島でパブを営んでいる阿部さん。1Fはロンドンパブ風の、2Fはサイケデリック風の店だ。格安で貸してくれている大家さんは、内装のリノベーションも自由にやらせてくれた。

「凝り性なんで、他人に任せるのが嫌なんです」と賃料を払ったまま店を開けずに約1年間、DIYで内装を仕上げた。

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2011年にお店をオープン。周囲に若い層がお酒を飲める店があまりなかったこともあり、あっという間に常連がたくさんできた。

ところが昨今の新型コロナである。

「休業要請、時短要請、酒類の提供禁止、感染予防のため席の間引き……とてもじゃないですが、商売にならないんですよ」。恐らく日本中の同業者がきっと同じ思いを抱いていることだろう。

しかし阿部さんはめげなかった。「キッチンカーを試してみよう」。それも料理ではなく、お酒専門の。

「キッチンカーはまず見た目が勝負だと思ったんです。お客さんは『何だろう? 何か可愛いから寄ってみよう』それで初めて利用してくれて、あとは味や金額でようやく判断されます」。

確かに、お客からすればまずは見た目、そのあと口に入れて気に入るかどうか判断するものだ。

メーター周りにパネルがないのはオリジナルのママ。オーディオは当時のブラウプンクト社製で、友人にお願いしてスマホからの音楽を流せるようにした。

だからこそのミニ・トラベラー。昨年の夏頃に購入した。ところが納車わずか1週間後にトランスミッションが壊れてしまった。

修理工場に持っていくとエンジンも怪しいから、合わせて100万円はかかると言われた。「何とか60万円は工面したのですが、コロナ禍でとてもそれ以上は……」。

しかし、ここでも阿部さんは諦めなかった。クラウドファンディングで修理代を集めようと考えたのだ。

「お礼に私のデザインしたTシャツと、パブで使えるドリンクチケットを用意しました」。すると常連さんたちを中心に支援が集まり、1カ月間で130万円近く集まった。改めて昨年10月からキッチンカーをオープン。

「おかげで今は快適に走れます」。現在は週末の公園でビールやカクテルを販売している。

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初めての車は、モッズ好きが高じたボルボ・P1800S

実は阿部さん、本業はファッションデザイナーだ。「高校生の頃は周りと同じくアメカジだったのですが、女友達から『阿部くんは細いから、アメカジよりもモッズのほうが似合いそう』と言われたのがきっかけで、モッズカルチャーにハマっていったんです」。

高校卒業後はファッション系の専門学校へ入り、卒業後に自らのブランドを立ち上げた。しかし世の中そんなに甘くはない。

革のトランクにキッチンカーのグラスやお酒、おしぼり等を入れて移動。営業中に音楽をかけるためレコードプレーヤーもある。

「そこで食べるためにまず通信関係の営業を始めたんです」。すると自分でも知らなかった才能が開花!?したのか、お客さんが別のお客さんを紹介してくれるという好循環に。「それで初めて車を買いました。ボルボのP1800Sです」。

モッズがボルボ?と思うかも知れないが、実はザ・フーのボーカル、ロジャー・ダルトリーが乗っていたことでモッズファンの中では有名な車。

またイギリスのテレビ番組ではロジャー・ムーアの愛車として毎週登場していた。「しかも見つけたのがダルトリーと同じ1964年式でした」。

一方で営業成績も相変わらず好調だった。「けれど、一生続ける仕事ではないと思っていました」。ある程度の資金が貯まると、営業の仕事をやめ、向島でパブを開くことに。

「パブは、ファッションデザイナーとしてのショールームを兼ねられるし、そこでカスタムオーダーで服や靴を作ろうと思ったんです」。

商売繁盛や交通安全の御守りなど、カーマスコットやグッズがあちらこちらに。

ところがパブを開業して間もない頃、資金がショートしてしまう。

慣れないパブと、ファッションの仕事の両立。見通しが甘かった。売れる物は全部売ったが、それでもまだ足りなかった。「そこで泣く泣く、ボルボP1800Sを手放したんです」。

購入したときよりも高く売れ、ようやく資金ショートの穴を埋めることができた。ボルボが阿部さんを救ったのだ。

そして今度は、コロナ禍の阿部さんをミニ・トラベラーが助けようとしている。

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ミニの次は、ビートルズのツアーバン!

パブ同様、ミニ・トラベラーも阿部さんはDIYでキッチンカーにした。もちろん保健所の審査も通った。思惑通り「何これ?可愛い!」と人が集まっている。

「凝り性なので、あれこれ仕様を整えているのですが、リプロダクト品が嫌いで(笑)」お金はかかるが、これも客寄せのためと、少しずつステアリングやブレーキランプ、フォグランプ、フェンダー……と変えている。

そんな夫を阿部さんの妻はどう思っているのだろう。「実は妻がこの車を気に入ってしまい、運転したいと今免許を取りに行ってます」。

営業中の阿部さんはこんな感じ。

キッチンカーとして使うのは土日がほとんど。平日は彼女を教習所まで送り迎えしたり、好きなDIYのためにホームセンターへ行くなど普段使いしている。しかし、さすがにこの小さな車の中でずっとお酒を販売するのは体勢的にキツいらしい。

「腰を痛めそうなのと、あと屈んで作業をするのでお客さんの顔がよく見えないんです。だから常連さんが来ても、声をかけてもらえないと気づかないし、気づいてもその人の目を見て挨拶しようとすると、かなり大変なんです」。

車高が低いため、後続車からブレーキランプを見落とされやすい。そのためボディ後方の上にかわいいブレーキランプを備えた。

そこで阿部さん、またも動いた。

「キッチンカー商売を1年やってみて、ある程度自信が生まれたこともありますが、もう1台買いました」。え? 買いますじゃなく、買いました!?

「ビートルズが初期の頃に、ツアーバスとして利用したルーツ社のカマーという商用バンがあるのですが、それをインターネットで見つけてイギリスから輸入しました」。何でも取材日の翌日に横浜へ上陸するのだという。モーリスのミニ・トラベラーキッチンカーはスタッフに任せて、今後は2台体制に。

着ているのは自身のブランドのアイテム。Tシャツはクラウドファンディングの際に作ったお礼のTシャツだ。

阿部さんにとって、車に乗ることやカスタムすることは仕事でもあり趣味でもある。自身も認める凝り性な性格は、今後もどんどんミニ・トラベラーとの関係を深め、自分とお客さんを喜ばせていくだろう。

そして今頃は、新しいカマーのキッチンカーも東京のどこかで見かけることができるかもしれない。「ミニ・トラベラーもカマーもちょっと気になるな」と思ったら、彼のインスタグラムをチェックしてみて。

鳥居健次郎=写真 籠島康弘=取材・文

# ミニ# モーリス#
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