車のトリセツ Vol.18
2020.10.05
CAR

ロールス・ロイスが“究極の贅沢”である理由を、あなたはまだわかっていない

「車のトリセツ」とは……

始まりはロールスとロイスのランチミーティング

イギリス、マンチェスターの老舗ホテル「ザ・ミッドランド・マンチェスター」の入り口には、1枚のプレートが掲げられている。記されている言葉の和訳は、こうだ。

「1904年5月4日、チャールズ・スチュワート・ロールスとフレデリック・ヘンリー・ロイスはこのホテルで顔合わせを行った。そのミーティングは、ロールス・ロイスの形成へとつながった」

写真は創業年の1904年製「10HP」。当時はボディを製作するコーチビルダーによってさまざまなカタチが作られた。

チャールズ・スチュアート・ロールスは、貴族の出身のレーサーであり、自動車の輸入販売も行っていた。

一方のフレデリック・ヘンリー・ロイスは、電気技術者だった。購入した自動車に満足できず、自ら自動車製造に乗り出す。開発した車は「10HP」。ロールスは、この車のテストドライバーを務めたひとりだ。

フランス車を輸入販売していたロールスは、優秀な国産(イギリス)車を販売したいと思っていた。彼はロイスの開発した「10HP」が非常に優秀だと気づき、冒頭のザ・ミッドランド・マンチェスターでロイスとのランチをセッティング。

ロイスが製造するすべての車をロールスの会社で独占販売する契約を打診する。ロイスの答えは、もちろんイエスだった。

NEXT PAGE /

昭和天皇も愛した「シルヴァーゴースト」

1904年の創業以来、2気筒の「10HP」、3気筒の「15HP」、4気筒の「20HP」、6気筒の「30HP」と車種を増やすロールス・ロイス。

この頃から、ロールス・ロイスのデザインアイコンであるパルテノン神殿をモチーフにしたグリルが採用されるようになった。

余談だが、ロールス・ロイスの象徴であり、フロントグリルの上に鎮座する「スピリット・オブ・エクスタシー」は、自動車雑誌の編集者がマスコットとして装着。1911年頃から公式マスコットとなった。

第二次世界大戦前は、主にエンジンや足回りなど“シャシー”部分をロールス・ロイスが、ボディや内装は名門コーチビルダー(馬車製造業出身も多い)が手掛けていたこともあり、多くの富裕層を獲得してきた。

写真は「シルヴァーゴースト」。すでに先端にはスピリット・オブ・エクスタシーやパルテノングリルが見てとれる。

最初に世界的な名声を得たモデルは、「30HP」に変わる新型6気筒エンジンを搭載した「シルヴァーゴースト」だ。

“世界最高の車”とも称される超高級車で、世界中の富裕層や王族に愛され、日本では、大正天皇、昭和天皇の御料車として用いられた。「シルヴァーゴースト」の生産が終了したのは、1925年。その後継モデルは、今でもフラッグシップモデルとしてその名を残す「ファントムⅠ」である。

ロイスは技術者としてのこだわりが強く、信頼性の高い車を作ることにこだわった。こうして熟練工によるハンドクラフトが生み出す高い耐久性や、こだわり抜かれたマテリアルによる贅沢な内外装により、高級ブランドとして確固たる地位を築いたロールス・ロイス。

1931年にはイギリスの自動車メーカー「ベントレー」を傘下に納めるなど、順調に成長を続けた。2つの世界大戦も乗り越え、1947年には量産モデルである「シルヴァーレイス」、1949年には「シルヴァードーン」と、現在までそのモデル名が続く車種が発表されることになる。

NEXT PAGE /

BMWグループとして生まれ変わる

最初の転機が訪れたのは1971年。

第二次世界大戦中に参入した航空機のジェットエンジン事業の不振で、経営破綻してしまう。自動車部門は新たに「ロールス・ロイス・モーターズ」として、一方、ジェットエンジンを含む工業部門は「ロールス・ロイス・ホールディングス」として再出発。空港などで間近から飛行機を見ると、ロールス・ロイスのロゴを冠したエンジンを確認することができる。

ロールス・ロイス・モーターズとなってからも、究極の一台にこだわる姿勢は変わらない。むしろ、そのほかの高級車メーカーとの差別化を図るために、より走る調度品とも言うべき超高級感が高まっていった。

その分野の最高峰を指して“○○のロールス・ロイス”(ex.砂漠のロールスロイス)と慣用句のように使用されるほどの存在となっていく。

写真は1980年代に販売されていた「ファントムVI リムジン」。

そして2003年、紆余曲折を経てベントレーをフォルクスワーゲングループが、ロールス・ロイスをBMWグループが引き継ぐことになり、また新たなスタートを切る。

新生ロールス・ロイスとなっても誰もが認める上質さや快適さ、高級な佇まい、そして、駆使された最新テクノロジーによるプレステージカーを造り続けるロールス・ロイス。

2019年には、116年の歴史で最高の売上げを記録したことも、その確固たる存在感を表しているだろう。

写真は2016年、ロールス・ロイスが誕生して100年となるメモリアルイヤーに、次の100年を見越して発表されたコンセプトカー「ロールス・ロイス ヴィジョン・ネクスト100」。

ロールス・ロイスのオーナーになれるのは、一部の限られた人間だけかもしれない。

しかし、車好きでなくともその世界観を知るほどのブレないモノづくりが、ロールス・ロイスを“究極の贅沢”として、誰しもが憧れる存在にしているのだ。貴重でエクスクルーシブなブランドの進むこれからの未来は、楽しみで仕方がない。

NEXT PAGE /

[主な現行車種]

・ファントム

ロールス・ロイスの最上級サルーン。

ロールス・ロイス・モーターカーズとなってからは2代目。BMWグループの最新テクノロジーが惜しみなく詰め込まれ、先進運転支援システム(ADAS)と車載コネクティビティが採用された。

もちろん、“魔法の絨毯”と呼ばれる乗り心地は健在。軽量ボディとエアサスで、さらなる極上な乗り心地を手に入れている。車両本体価格は5603万円。

 

・ゴースト

「ベイビーロールス」と称されるエントリーモデル。2020年9月1日に新型が発表された。

スピリット・オブ・エクスタシーとパルテノングリル、観音開きのドアなどは継承しているが、それ以外はポスト・オピュレンス(脱贅沢)のデザイン哲学に則り、華美な装飾を排除してゼロから開発。

それでも、特徴的な乗り心地や高級なレザーやウッドをふんだんに使用した上質な室内は維持。日本での販売価格は未定。

NEXT PAGE /

・レイス

ロールス・ロイス史上、最もパワフルな動力性能を誇るGTカー。

流れるようなファストバックデザインが特徴だ。2ドアであることからもわかるように、ショーファードリブンではなく、自らステアリングを握り楽しむことを目的としている。

現在位置とその時の走行スタイルに基づいてドライバーの動きを予測し、進路に合わせて最適なギアを選択するサテライト・エイディッド・トランスミッション(SAT)を搭載するなど、最新テクノロジーも満載。新車価格は3854万円。

NEXT PAGE /

・カリナン

ロールス・ロイス 初のSUVであり、初の四輪駆動車。

フォルムは、力強い縦横のラインで構成されたボクシースタイル。伝統のパルテノングリルがロールス・ロイスであることを主張している。

最新型自動レベリング式エアサスペンションを組み合わせ、さらにエンジンを刷新することで、どんな地形でも“魔法の絨毯”の乗り味を実現した。車両本体価格は4008万円。

 

・ドーン

レイスをベースとする4シーターコンバーチブルだが、レイスに匹敵する無音環境を実現した。

22秒で開閉が完了するソフトトップのルーフ開閉は作動音を極力抑えており、「サイレント・バレエ(音のない舞踏)」を自称する。インテリアは、ウッドおよびレザーを組み合わせキャビンと、その中に配されたセパレート式バケットシートが贅沢さと仕立ての良さを演出。

インテリアがエクステリアの印象を補完し、気品と安心感、そして堂々たる存在をアピールしている。車両本体価格は4085万円。

「車のトリセツ」とは……
走行に関するトリセツはダッシュボードの中にあるけれど、各メーカーの車の魅力を紐解くトリセツはなかなか見つからない。だから始める、オートマティックで好きになったあの車を深掘り、好きな理由を探るマニュアル的連載。上に戻る

林田孝司=文

# ロールス・ロイス#
更に読み込む