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2025.10.23

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「会ったこともない人から嫌われたり…」宮崎移住15年で培った“地元に溶け込む術”と“子育て事情”


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一時避難のつもりが、図らずも宮崎県に移住してしまったネジさん。準備も心構えもないまま始まった移住生活で、失敗はなかったのか。

「多分、ほかの人から見たらたくさんあるんでしょうけど、自分で失敗と思ったことがないんですよ」。

そう話しながらもネジさんは、いくつかのエピソードを語ってくれた。
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▶︎前編はこちら

人の面倒を見る余裕なんてなかったのに……



「あまりポジティブな話じゃないんだけど、唯一“失敗”と言えるのは、SNSやメディアで移住生活を発信していたときのことです。『自分もそこに住みたい』という相談がめっちゃ来たんです」。

自分も移住者だからと、見ず知らずの人の相談に乗って、家に泊めて、ご飯を食べさせて、空き家や人も紹介した。

「そうしたらみんな『ありがとう!』って、去っていくんですよ。いや『せめてご飯代ぐらい置いていけよ!』っていう(笑)。当時は人の人生にポジティブに関わろうと思っていたんだけど、そういうことが続いて、めっちゃ疲弊しちゃって。

でも後から『悪いのは彼らじゃない』って反省したんです。今思うと、とても人の面倒なんて見られる環境じゃないのに、『恩送りだ』『ペイフォワードだ』って、勝手に自分を犠牲にしていただけなんですよ。

手を差し伸べているように見えて、結局は見返りを求めていた。それって相手にとってもすごく迷惑は話なんです。受け入れるにしても『うちに1泊するなら、最低いくらはください』と僕が言えていれば、こういう失敗は生まれなかったと思っています」。

移住は“マイナス”からのスタート



移住相談にのった人の中には、実際に移住をした人もいれば、そうでない人もいた。その理由の多くは「家が借りられなかった」からだという。

「まず不動産屋なんてものはありません。さらに田舎はよそ者に家を貸したくないという人が結構多いんですよ。家を荒らすだけ荒らして出ていっちゃった人がいて、一時期は移住者はいれないと自治会で決めている集落もありました。結局、悪い話って残るじゃないですか。だから基本的にはマイナスからのスタートなんですよ」。

空き家はあっても、残置物が残っていたり、掃除が必要だったりと、貸し手側の心理的ハードルも高い。では、ネジさんはどうやって家を見つけたのだろう。



「僕が今、住んでいる家は、偶然見つけた空き家です。当然、ここも住んでいたときのまんまだったんですよ。でも『ここを買えなかったら、もう僕行くところがないんです!』って熱意でゴリ押しをして、なんとか買わせてもらいました」。

同じ日本と言えども、都会と田舎では文化や生活スタイル、価値観も異なる。

「移住者って、だいたい僕みたいな風貌なんですよ。『仕事何しているんですか?』みたいな(笑)。夏祭りや学校行事で集まるにしても『地元の人』と『移住者』で分かれちゃう。会ったこともない人から嫌われたりもしましたね(笑)。だから移住当初は、溶け込むためにすごく力を使っていました」。



ネジさんは移住してすぐに消防団に入り、村の祭りにも積極的に参加した。当時は「無駄に肩肘を張って」溶け込もうと必死だったという。

「お葬式のときって看板が立つじゃないですか。僕は全然知らない人なのに、御霊前を包んで、よく参列していたんです(笑)。よく思ってもらおう、顔を覚えてもらおうという魂胆だったんですが、当然のことながら評価も上がらないし、住みやすくもならない。うまくいかなかった悪知恵ですね(笑)」。

「毎日が決断のチャンス」ネジさん流子育て


時が経ち、今では移住者も増えて、パパ友のほとんどが移住組になって「だいぶ息が吸いやすくなりました」と笑うネジさん。そこで気になるのが子供たちの教育の問題だ。

現在、ネジさんはシングルファーザーとして、16歳、14歳、12歳の3人の男の子を育てている。



「まず子供たちは地元組も移住組も関係なく、最初から仲良く過ごしていました。あと今は公立や私立だけじゃなく、N中のようなプログレッシブスクールもあるし、起業だってできる。田舎でも色々な選択肢があるわけです。だから僕は、大事なのは自分で道を選ぶことだと思っています。

なんとなく、中学、高校と進んで、18歳になって『じゃあ自分の人生どうする?』と急に将来を突きつけられても、遅すぎると思うんです。だからうちでは小学6年生になると、スケッチブックを持ってカフェに行って、成人までの自分の人生年表みたいなものを書くという儀式をやっています。毎日が決断のチャンスだからこそ、早くからその癖をつけていってほしいんです」。

実際、長男はN中に進学、次男は「バスケ部に入りたい」と公立中学に進学した。



最後に、これから移住したい人へのアドバイスをお願いしたところ、返ってきた答えはまさかの返答だった。

「いきなり移住するんじゃなくて、住みたい土地にまず関係性を築きに行った方がいい」。ネジさんの経験とは真逆の答えだ。

「でも本当に思うんですよ。移住したい人は、夢を見ていると思うんです。でもね、広い土地をゲットしたら草刈りは半端じゃないし、近所にいじわる爺さんがいるかもしれないし、たとえばうちなんて、家の中をカニが歩いていたりするわけです(笑)。

そんな生活嫌でしょ?

『あなたが当たり前に送っている毎日、結構好きじゃない? あなたの普通って実は結構理想じゃない?』って、考えてみてほしい。田舎に住むと、これまでの普通って通用しないわけですよ。だから今の生活を送ったまま、まず現実を見に行ってからでも、移住するのは遅くないんじゃないかって。

逆に僕は都会に住んだことがないから、今の夢は東京で一人暮らしをすること。1年ぐらい一人暮らしをして『やっぱり田舎がいい!』って言いたいですね」。




移住から15年。親も兄弟も友達もいないところからスタートした暮らしは、今では同じ境遇の仲間たちに囲まれた日々になった。

「本当に移住して良かったと思っています」と笑顔で語るネジさんの移住ライフはSNSで発信されている。移住に興味がある人は、SNSをチェックして、まずはネジさんの塩から買ってみてはいかがだろうか。

林田順子=取材・文

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