グレーデニムの繊細な色みが目を引く、ドロップショルダーのシャツジャケット。インナーに合わせたモヘアベースの半袖ニットが魅せるブラウン&グレーのグラデーションは、フェンディの創業地、ローマの夕暮れから着想を得たというアートな仕上がり。ジャケット35万6400円、ニット34万9800円/ともにフェンディ(フェンディ ジャパン 0120-001-829)
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すべての写真を見る「ありがとねー」。
一般的にモデルは、ひとつのカットが終了をすると衣装を脱ぎ、その場でスタッフに手渡す。撮影現場ではお馴染みの光景だ。
ほかにも飲み物を差し出されたときや汗を拭いてもらったとき……。窪田さんは呼吸をするように謝意を示す。そこに感じる“普段のオーラ”が実に心地良い。
その旨を伝えると「うれしいです。ありがとうございます」と、ここでもうやうやしく礼を言う。
「特に意識はしていませんが、当たり前のことではないですから」。
この日はオーバーサイズのTシャツに極太のパンツ、足元はサンダルというラフないでたちで登場した。3人兄弟の末っ子で、服はお下がりが多かったという。
「デニムに興味を持った時期がB-BOYブーム真っただ中で、兄がビッグシルエットのデニムをはいていたので、その影響からか僕もダボっとしたシルエットが好きです。
今はデニム3本を所有していて、いずれもワイドシルエットです」。
いわゆるデニムブランドのものではなく、デザインされたデニムが好きだと言う。
「シルエットにこだわっていて、自分の体型に合ったものとなるとデザイナーズ一択。
なかには極端にレングスが長いものもありますが、できればカットをしたくない。だってその丈感にするからには、ちゃんとした理由がありますよね。作り手の思いを考えるとそのまま脚を通すのが理想です」。
最近は服を夫婦でシェアすることも少なくないが、窪田さんの場合はどうか。
「ありますよ。デニムはないですが、彼女が僕のロンTをよく着ています。なぜかものすごく気に入っていて、シェアというより彼女のものになっているくらい(笑)」。
レギュラーフィットデニムは、冒頭写真のジャケットと同素材。メタルパーツにはパラジウム加工を施すなど、クラフト感溢れる仕上がりだ。「こういうこだわりあるデニムが、手元に残り続けるのだと思います」。ブラウンのシングルブレストジャケットと合わせたシックな装いにも違和感なく馴染む。デニム18万400円、ジャケット47万3000円、ポロシャツ45万6500円、ブーツ23万6500円/すべてフェンディ(フェンディ ジャパン 0120-001-829)
年齢を重ねるにつれて、自身のファッションにも変化がみられたそう。
「最近は断捨離をすることで服を循環させています。そうやって意識して回しているにもかかわらず、デニムだけはいつも手元に残っているんです。
デニムって服の中で最も奥深いというか、サイズや色、シルエットに関係なく表情があるように感じるんです。良くも悪くも、着る人を表しているんじゃないかな。
僕にとってデニムは、着る人の個性を映し出す鏡のような存在。そのため、軽い気持ちで買ってみようとは思えなくて、そこが逆に魅力的。ブランドバリューに関係なくデニムは特別なものです」。
現在公開中の映画『宝島』は、混沌とした時代を駆け抜けた“戦果アギヤー(米軍基地から物資を盗む者たち)”と呼ばれる若者の姿を、壮大なスケールで描いた大作。窪田さんは戦果アギヤーのリーダーで、行方不明のオン(永山瑛太)の弟、レイを熱演している。
「レイは、大人になってからもオンを探し続けるわけですが、GHQに占領され、アメリカに有利な法制に加え、すべてが制限されていた当時は人探しも大変。『オンに会いたい』という気持ちでレイはヤクザになり暴力でもって捜索する。
現代であれば“悪”ですが、何の希望も見いだせなかった当時の沖縄では、義憤に駆られた彼の行動は自然なことだったのかなと思い、複雑な心境です」。
本作に携わった経験を含め、ここ数年は少しずつ人生観が変わりつつあるという。
「休むことも大事にするようになりました。仕事のときは役柄や他人の感情を優先していましたが、今は自分主体。おかげで自分自身の感情が手に取るようにわかるようになりました。
コロナ禍になったときに生き方を改めて考えたこと、あとは家族ができたことが大きい。そういったことから、常に新鮮な刺激を受けています」。
より自由で自然体な暮らしを営むヒントを、オーストラリア旅行の際に得たという。いつか実現させたいライフスタイルとは?
「バイロンベイに滞在したのですが、すごく気持ちいいところでした。自然豊かで環境も最高。みんなが自分を大切にする時間を生きているから、訪れている僕もまったくストレスを感じない。いつか移住したいなぁ。
日本との時差も1時間しかないので、仕事にも影響はなさそう。今後は、限りある時間を自分や家族のために大事に使いたいですね」。
窪田正孝●1988年生まれ。2006年に俳優デビュー。出演する大作映画『宝島』が全国の劇場で公開中。「戦後の沖縄で起きていた現実と、今なお戦争の痕跡が残っているということを改めて考えるきっかけになる作品だと思います。ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです」。
OCEANS 11月「やっぱりデニムは、人だ。」号から抜粋。さらに読むなら本誌をチェック!