連載「The BLUEKEEPERS Project」とは……OCEANS SDGsアドバイザーであり、セイラーズフォーザシー日本支局理事長・井植美奈子さんと、シーフードレガシー代表・花岡和佳男さんによる「サステナブルシーフード対談」もいよいよ最終回。今回は、両者がそろって出展する大阪・関西万博について。
海洋保全の発信拠点となるパビリオン「BLUE OCEAN DOME(ブルーオーシャン・ドーム)」で、どんな未来を描こうとしているのか。その特別なプランをひと足先にお届けしよう。
※ IUU:Illegal, Unreported aのUnregulated漁業の訳で、世界的な課題となっている、違法・無告知・無規制に行われている漁業のこと【写真6点】「関西・大阪万博の『ブルーオーシャン・ドーム』最終章」の詳細を写真でチェック
――大阪・関西万博で海洋における課題に焦点を当てるパビリオンが「ブルーオーシャン・ドーム」です。閉幕までのラスト2週間、9月29日(月)〜10月5日(日)まではシーフードレガシー、10月6日(月)〜10月13日(日)はセイラーズフォーザシー日本支局が展示を担当されます。サステナブルなシーフードをテーマにしたセッションの内容を教えてください。井植美奈子さん(以下、井植) 「企業や政府、海外や次世代の取り組みの紹介もできるようにプログラムを組んでいます。この分野はまだプレイヤーが少ないからこそ、みんなで力を合わせて進めていくことが大事だと思うんです。来場者の方も『サステナビリティを知りたい』『自分も貢献したい』という気持ちで足を運んでくださると思うので、私自身とても楽しみにしています。
なかでも注目していただきたいのは、IUUをテーマにしたセッションです。大使館の方々にもご登壇いただく予定で、実際に国際的な連携がどう進んでいるのかを現場から伝えていただきます。
例えば、日本周辺の北西太平洋では、IUU漁船の取り締まりを国際協力で強化しています。カナダ政府は巡視船でカナダ・アメリカ・日本・韓国の合同演習を実施しています。
特にEEZ(排他的経済水域)付近や公海では、国を越えた取り組みが不可欠だし、持続可能な海の利用は地球問題、国境なき政治の課題です。その国を超えた議論と取り組みの実態を皆さんに知っていただける貴重な機会になるはずです」。
井植美奈子(いうえ・みなこ)⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。
花岡和佳男(以下、花岡)「シーフードレガシーは9月29日(月)からの1週間、セイラーズフォーザシー日本支局を含む多くの仲間たちと共に『
選んで守るサカナの未来WEEK』というテーマで行います。海にはまだ多くの課題がありますが、解決できれば本当に大きなポテンシャルがある。その未来を示したいと思っています。
私たちは『
ジャパン・サステナブルシーフード・アワード』も実施していて、ブルーオーシャン・ドームでサステナブルシーフードの普及に貢献するビジネスや企画を表彰します。一般の方々向けには「生活の中でどう環境や社会に配慮した水産物を選ぶか」をテーマにしたセッションや、養殖認証のアンバサダーを務めるロバートの馬場さんにも責任ある養殖をテーマに登壇いただく予定です」。
井植「花岡さんは万博と並行して、TSSSも大阪で開催されますよね」。
花岡和佳男(はなおか・わかお)⚫︎株式会社シーフードレガシー 代表取締役フロリダの大学にて海洋環境学及び海洋生物学を専攻。 卒業後、モルディブ及びマレーシアにて海洋環境保全事業に従事。 2007年より国際環境 NGOで海洋生態系担当シニア・キャンペナーとしてジャパン・サステナブル・シーフード・プロジェクトを立ち上げ引率。
花岡「はい。サステナブルシーフード・ムーブメントのフラッグシップ・イベントとしてアジア最大級に成長したサステナブルシーフード・サミット(
TSSS)は、昨年10回目の開催を迎えました。今年はブルーオーシャン・ドームでの催事とリンクして大阪で開催します。東京以外の都市で開催するのは初めてとなります」。
井植「TSSSは国際イベントとして認知され、海外からの参加も多いですよね。国際会議に出ても日本の参加率が少ないことが気になっていましたが、TSSSは日本語でグローバルな課題を扱う貴重な場です。
日本人が国際的な場で議論し発信していくことはとても重要。アジアで議論を主導するリーダーシップも示していく必要がありますし、海洋を国家戦略のひとつに位置づけてほしいと思っています。市民の関心が高まれば、政治における課題解決の優先順位も上がります」。
花岡「だからこそ、万博のブルーオーシャン・ドームで現状を広く知ってもらい、TSSSで市場と政策が歯車を合わせる『課題とソリューションの両方』を示すことが大事だと考えています」。
シーフードレガシーのオフィスに置かれていたスタッフユニフォームは、繊維から生まれた再生ポリエステルを素材とする「BRING」製のものも見受けられた。
井植 「セイラーズフォーザシー日本支局は最終週の展示を『OCEAN and BEYOND』というテーマで行います。未来へ向けた海洋のテーマの総まとめとして、『サステナブルシーフード』『ウィメン アンド オーシャン』『オーシャン アンド フューチャー』の3つを軸に構成します。
ゲストも多彩で、安倍昭恵さん、グロービスの堀義人さん、俳優の辰巳琢郎さん、万博副会長でもある池坊専好さんなど、各界の著名人も海の持続可能性と地球の未来のために集結してくださいます。
また、富士見中学校高等学校の生徒さんがブルーシーフードをテーマに取り組んでくださったリサーチの発表や、Y 7/Y20というG7/G20の公式ユース組織が国民民主党党首の玉木雄一郎衆議院議員や最年少市長の高島りょうすけ芦屋市長らとディスカッションを展開するなど未来世代の活躍も注目です。ブルーエコノミー・ブルーファイナンスの議論は日興証券がご登壇下さいますし、英国大使館、カナダ大使館など多彩なゲストをお招きしています。

なんといっても、万博の最終日12日には弊社名誉顧問に就任してくださった、ジェーン・ルブチェンコ博士がご登壇くださいます。ルブチェンコ博士は、アメリカ海洋大気庁のトップを務め、オバマ、バイデン両政権下で大統領の側近として海洋戦略を担った方です。この世界で知らぬものはいない、名実ともにトップランナー、そして輝く女性の先駆者でもあります。
ディスカッションは、英国からエコノミスト社のワールドオーシャンサミット創設者でもあるチャールズ・ゴダール氏やすずかんの愛称でお馴染みの鈴木寛教授、東京大学の牧野光琢教授、弊社特別顧問の角南篤笹川平和財団理事長と言った豪華メンバーで、本当に貴重な機会になると思います」。
花岡「シーフードレガシーの10周年パーティでも、多くの方が『この10年での変化』を実感していると話してくれました。変化には時間がかかりますが、確実に進んでいます。万博のように大人から子どもまで幅広い人々が参加できる場は、未来の10年、20年を考えるうえで大きな意味を持つはずです。ポジティブな変化を皆さんと共有できることを楽しみにしています」。

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大阪・関西万博のブルーオーシャン・ドーム、そしてTSSS。舞台は違えど伝えたいことはひとつ。海はまだ守れるし、未来を変えることができる、ということだ。課題も多いけれど、そこに向かう人や企業、そして消費者が確実に増えている。私たち一人ひとりの選択や行動が、次の10年の海をつくっていくのである。