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2025.08.27

ライフ

モナコ生まれのNGOは「国家元首」が会長!その成り立ちについてCEOに緊急インタビュー


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美しき地中海に面する小国モナコで生まれたモナコ アルベール2世公財団は、その名前のとおり国家元首のアルベール2世公が設立者であり会長を務めている。日本の場合なら、陛下が財団を設立して環境活動をリードしているってワケだ。

「どうして国家元首みずからが環境活動を?」

その理由を財団のCEO兼 副会長のオリビエ・ウェンデンさん直々に伺う機会を得た。
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財団の設立は個人的な決意の表明

[写真中央]モナコ公国 アルベール2世(HSH Prince Albert II of Monaco alongside)

[写真中央]モナコ公国 アルベール2世 /持続可能な未来を築く、若者たちをサポートするプログラム「RE.GENERATION FUTURE LEADERS PROGRAM」をモナコ国際大学にて開催されたときの模様 © F.Nebinger Palais Princier


――まずは「アルベール2世公財団」の環境保全活動について教えてください。

当財団は2006年に、モナコ公国のアルベール2世公によって設立されました。現職の国家元首が会長を務めるNGOは、世界でも類を見ない存在です。

名声、時間、資金という殿下自身が持つものの多くを注ぎ込み、科学者や活動家、起業家などを支援しようと決めたのは、世界が直面している三重の危機、すなわち気候危機、生物多様性危機、プラスチック汚染を含む汚染危機に対処するためです。

当財団はグローバルに活動していますが、特に力を入れている地域は3つあり、ひとつめがモナコの眼前に広がる地中海、ふたつめが殿下自身が足を踏み入れた極地です。なぜ極地かというと、海面上昇、氷の融解、生物多様性の喪失がほかの地域よりも速いペースで進み、これから世界で起きうることを示唆しているからです。

DJI_20230926091743_0159_D ©FCI - Paulo Velozo

©FCI - Paulo Velozo


そして3つめが後発開発途上国。気候変動の影響を最も受けており、人材と資金の不足という不遇に見舞われていることが理由です。

活動は現地でのプロジェクトを支援するだけでなく、政府に働きかけ、また外交を通じ他国と協調しながら課題に取り組んでいます。加えて、後発開発途上国で気候変動を学ぶ博士課程の学生に助成金を提供しており、修了後の彼らが自国や世界の環境に貢献してくれることを期待しています。



海洋保全についてですが、5年前よりそろそろブルーエコノミーを立ち上げる時期だと考えていました。

環境活動に慈善活動は不可欠です。それに対して、海洋環境の保全に貢献し、持続可能な海洋資源の利用を促進するブルーエコノミーは新しいアプローチを可能にします。ブルーフード、プラスチック、グリーン輸送、人工知能、海洋レジリエンスの5分野を基盤とする、プライベート・エクイティ・ファンドも立ち上げました 。それも、ブルーエコノミーが海洋環境を改善していく鍵になると感じていたからです。

※ 未上場企業の株式に投資する投資ファンド

©The-Polar-Initiative---John-

海氷が融解する模様 © The Polar Initiative - John Weller


――国家元首が環境活動を主導する。このようなことは日本ではイメージしがたいのですが、なぜモナコでできるのですか?

アルベール2世公は、家族が広い視野を持つ人物になるよう育ててくれたのだと、語っています。10代の頃、室内に飾られていた大気汚染に警鐘を鳴らす『ナショナルジオグラフィック』のポスターから、人間の活動が環境に悪影響を及ぼすことを知ったと言います。

以来、家族でハイキングなど戸外に出かけるとき、彼らはプラスチックを始めとするゴミの回収を始めました。人間活動によって破壊されてしまう環境に配慮するのは自然なことで、その心の有り様は、2005年にモナコのプリンスに即位したのち、最初に行った決断が自らの財団を設立したことにも表れています。つまり財団の設立は個人的な決意の表明であり、マーケティングでも、環境問題が今注目を集める事柄だからでもないのです。



――欧米の方に取材をすると、要職にありながら文化・芸術・スポーツなどの事柄に精通している方が多く、豊かな人生を送る尊さを体現されているように感じます。

アルベール2世公も、国家元首ながら財団を設立するだけでなく、調査目的で北極と南極に行き、冬季オリンピックにはアスリートとして5回出場しています。実は高祖父のアルベール1世公も海洋学者で、20世紀初頭にモナコ水族館を設立しました。そのようなファミリーの歴史的なルーツも影響を与えたのだと思います。

殿下の視野の広さは映画製作をサポートした実績にも表れています。その映画とは英国の高名な動物・植物学者かつ自然ドキュメンタリーの制作者、デビッド・アッテンボローによる最新作品『オーシャン with デビッド・アッテンボロー』。

ロビー活動やキャンペーンも展開し、英国首相が映画を内覧するまでになりました。その結果、底引き網漁の現実に衝撃を受け、英国政府は海洋保護区での底引き網漁を中止すると発表するまでになったのです。

 ©FCI - Paulo Velozo

©FCI - Paulo Velozo


――どのような内容なのでしょうか?

BBCの番組で自然をテーマに作品を手掛けてきたデビッドは「人間の活動によって美しき自然は損なわれてきたが、それでも希望はある」と訴えたジャーナリストです。映画はまさにそのことを描いています。

メインシーンは底引き網漁を捉えた10分間。底引き網は、幅100mに及ぶ巨大な金属製ネットを海底に張り巡らしながら船で引きずり、魚介類を根こそぎすくいあげていきます。その過程でサンゴや甲殻類など、狙った獲物以外の海中生物や海底環境は破壊されてしまうのです。しかも捕らえた獲物で消費されるのは30%未満。それ以外は廃棄されるのです。

この現実の映像化が本作の核心部分。海洋保護区の設置を宣言した国や地域は多いですが、保護区内でこのような活動を容認するならば、その海は守られているとはいえません。

今年6月9日から13日の日程で行われた、第3回国連海洋会議の公認サイドイベント「Blue Economy and Finance Forum Head of State 」の模様

今年6月9日から13日の日程で行われた、第3回国連海洋会議の公認サイドイベント「Blue Economy and Finance Forum」に参加した各国首脳 ©Nebinger - Palais Princier


――デビッド氏をはじめ、おそらく現場で活動をする人こそが、自然環境が悪化する状況を見聞きし、ときに絶望さえ覚えるのだと思います。財団の皆さんも同様だと思うのですが……はたして、まだ希望はあるのでしょうか?

先ほど申し上げた三重の危機はそう簡単に解決できません。では、どうすれば希望を持ち続けられるのか。なかでも海洋問題に関して、私たちの答えは万能薬だとはいえませんが、ビジネススキームの構築が一つの解決策になるだろうと考えています。

近年投資家ともよく話し合っているのです。海洋は経済から遠い存在ですが、ブルーエコノミーの可能性はとても大きいと。事実、経済活動そのものは始まったばかりですが、OECDのレポートによれば、ブルーエコノミーを軸に設立される企業数は2年ごとに倍増し、2024年に民間投資は45%増え、海洋資産はわずか5年で2倍になりました。

また私たちも2年をかけて市場を調査しています。



――我々の読者も含め、幅広い人たちが海の状況を自分ごと化するために重要なことはなんだと思われますか? 

教育やビジネスを通して海と触れ合う機会を増やすのが大切だと思います。なぜなら、海を理解しなければ、海を愛さなければ、海を守ることはできないからです。

フランス、スペイン、イタリアでは、休暇を過ごす目的地として海を重視するファミリーが多く、北アフリカ、タイ、インドネシアなど、世界中を旅して最高のビーチを探す人もいます。メキシコの人々は、太陽と海を見るためによく旅行する傾向がありますよね。

しかし、海から離れたり、距離を置いたりし続けると、再び日常の居場所とするのは難しい。日々の生活の中で海を大切にしていただければ、大変うれしいですね。

©Pelagos---Greg-Lecoeur

ペラゴス海洋哺乳類保護区で撮影した、ゴンドウクジラ ©Pelagos---Greg-Lecoeur


私は海辺で育つという幸運に恵まれました。モナコの人々は風習のひとつとして子供たちに泳ぎ方を教えます。健康と安全のためであると同時に、海中の生き物たちと触れ合う方法であり、私も2人の子供もそのような形で海の原風景を持っています。とても身近な存在だといっていいでしょう。

だからこそ、各地で海が枯れてしまっている状況には心を痛めています。先日もアルベール2世公にある話を聞きました。殿下は11月、5年ぶりに南太平洋に浮かぶソロモン諸島に行かれたのですが、潜ってみると、海中に生命がなにも息づいていなかったそうなのです。とても衝撃的で悲しい体験談でした。

傷つき続ける海は、気候変動と戦う私たちにとって最良の味方でもあります。大気中の二酸化炭素の30%以上を吸収し、人間の活動によって発生する熱の90%を吸収しているのですから。いかにその存在が偉大か。改めて、私たちはより尊重し、癒し、最良の関係を築く必要があるのです。
オリビエ・ウェンデン(Olivier Wenden)
モナコ アルベール2世公財団CEO兼 副会長
2019 年、アルベール2世公の任命によりモナコ アルベール2世公財団のCEO兼副会長に就任。外交的な手腕と持続可能な未来への情熱を持って環境活動の最前線で活躍する。また同財団は、気候変動との闘い、海洋および陸域の生物多様性の保護、水資源の保全といった問題に取り組むことを使命として、グローバルに活動を展開。環境を大切に思うモナコや財団の世界観には大阪・関西万博のモナコ・パビリオンで触れられる。

小山内隆=取材・文

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