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2025.09.27

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「ついに日本も動き出した」IUU漁業対策から考えるサステナブルシーフードの未来


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連載「The BLUEKEEPERS Project」とは……

セイラーズフォーザシー日本支局理事長の井植美奈子さんと、シーフードレガシー代表の花岡和佳男さんによる対談企画。

第2回のテーマは、日本が直面する大きな課題「IUU」 。2018年に漁業法改正に尽力した二人が、いまの日本の漁業環境と国際社会での立ち位置について語る。
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※ IUU:Illegal, Unreported aのUnregulated漁業の訳で、世界的な課題となっている、違法・無告知・無規制に行われている漁業のこと

【写真6点】「『ついに日本も動き出した』IUU漁業対策から考えるサステナブルシーフードの未来」の詳細写真をチェック

井植美奈子(いうえ・みなこ)⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。

井植美奈子(いうえ・みなこ)⚫︎ディビッド・ロックフェラーJr.が米国で設立した海洋環境保護NGO[Sailors for the Sea]のアフィリエイトとして独立した日本法人「一般社団法人セイラーズフォーザシー日本支局」を設立。京都大学博士(地球環境学)・東京大学大気海洋研究所 特任研究員。総合地球環境学研究所 特任准教授。OCEANS SDGsコンテンツアドバイザー。


井植美奈子さん(以下、井植)「この10年で大きく変わりましたね。かつては水産資源が減っている事実すら認めなかった時代もありましたが、今は持続可能な漁業を目指す取り組みが進み、水産庁も「サステナブル」を前面に出しています。法律も大きく改正されました」。

花岡和佳男さん(以下、花岡)「シーフードレガシーを創立したのが2015年。2018年には70年ぶりに漁業法が大改正されましたが、そこにいたるまでに、内閣府規制改革推進会議で漁業法改正に向けたワーキンググループがあって、私もメンバーとして参加していました。

国会議員や行政の方々に、たくさんのNGOやステークホルダーがインプットを行い、『サステナビリティは経済成長につながる』という文脈が認知されたことが大きいと思います。

NGO時代の私の活動を踏まえると、普通だったら政府に有識者として呼ばれないような、政治家や行政の方々に対して耳の痛い問題提起ばかりをする存在でした。しかし、招かれた。抜本的に改革したいという方針の表れだと感じましたね」。

井植「花岡さんが2期連続で会議に呼ばれたのは、その実力の証拠。単なる問題提起ではなく、解決の筋道を示す力があるからこそですね」。

花岡和佳男(はなおか・かずお)⚫︎株式会社シーフードレガシー 代表取締役フロリダの大学にて海洋環境学及び海洋生物学を専攻。 卒業後、モルディブ及びマレーシアにて海洋環境保全事業に従事。 2007年より国際環境 NGOで海洋生態系担当シニア・キャンペナーとしてジャパン・サステナブル・シーフード・プロジェクトを立ち上げ引率。

花岡和佳男(はなおか・わかお)⚫︎株式会社シーフードレガシー 代表取締役フロリダの大学にて海洋環境学及び海洋生物学を専攻。 卒業後、モルディブ及びマレーシアにて海洋環境保全事業に従事。 2007年より国際環境 NGOで海洋生態系担当シニア・キャンペナーとしてジャパン・サステナブル・シーフード・プロジェクトを立ち上げ引率。


花岡「私のなかで描くゴールは、昔も今もブレなく同じで、海洋環境を守りたいし改善したいということです。国際NGOに所属していた頃と現在では、その走り方を少し変えたという感じ。シーフードレガシーでは、コンサル的というか伴走型のアプローチを行なっています。『問題提起や、解決のためにどのような道筋を描くか』を政治に対して働きかけるときも、組織の声ではなく社会の声を背負っている意識が強くなりました」。



――お二人が一緒に取り組まれているトピックの中で、IUUに関する活動は現在どのような変化が感じていますか?

井植「私たちが一緒に立ち上げた、『IUUフォーラムジャパン』は『違法・無報告・無規制の漁獲物を日本に入れない、世界から無くす』ことを目標に協働しています。EUやアメリカではすでに市場から排除するルールがありますが、アジアにはグレーな魚が流れ込みやすい。日本は世界第3位のマーケット。だからこそ日本が 『IUU由来の水産物を輸入しない』と明言すれば、国際的なインパクトは非常に大きいのです」。

花岡「魚食文化に誇りを持つ日本だからこそ、ブラックマーケットにはしたくない。その想いを軸に活動してきました。ただ、国内漁業は漁業法改正で進展しましたが、消費される魚の半分を占める輸入水産物については未対応だったため、新たに『流通適正化法』制定への議論が始まりました。2019年から水産庁の水産流通適正化制度検討会議に委員として呼ばれ、またIUUフォーラムも奔走し、海外政府関係者のレクチャーや企業の署名集めに尽力しました。当初は日本政府も消極的でしたが、今では“どう解決するか”を前向きに議論する段階に入っています」。



――「その大きな変化が起きたのは、何がきっかけだったのでしょうか?」

花岡「『アメリカやEUができているのに、主要水産市場国である日本だけできてないというのは、国際社会に対しても、国内業界に対しても、責任放棄ではないですか?』という私たちからのアプローチと、水産物を扱う商社や大きな小売企業、水産会社などが、私たちの声に賛同するようになってきたんです。

井植「営利企業こそ、利益が生み出せないという状況は、正義じゃないですよね。だから企業としても政府にいち早く正しいルールを作ってほしいと考えていたと思います」。



花岡「貿易の力を、海を壊すことや人権を侵害することじゃなくて、守ることに使うというアプローチは、私たちがずっと発信してきたことです。ここ2〜3年は、それに賛同してくれる企業がさらに増えていると感じます。『サステナブルシーフード・サミット(TSSS)』というフラッグシップイベントを毎年開催して、ビジネス界に対する旗振り役もしています」。

井植「マーケットとしては、資金が必要になってきますよね。そこで投資家に対しての説明も必要かと」。

花岡「はい。シーフードレガシーでは、金融機関に対する働きかけを行っています。この2〜3年で起きている変化のなかでは、このトピックスを最も牽引してくれている存在が金融機関だと言っても過言ではない。自分たちが投資している先が環境破壊をしているというのはあり得ないわけですから。彼らにはしがらみもないし、悪いものは悪いと歯切れ良く言える。TSSSでも金融セッションへの注目度がどんどんと大きくなってますし、参加者も増えてきています」。

井植「実際、国連海洋会議でもみずほフィナンシャルグループが『IUUや人権侵害に関わる企業には投資しない』と表明していました。さらに FAIRRという70兆ドルとも言われる資産を運用するESG投資家 ネットワークも、世界の大手水産企業に対してトレーサビリティ強化を要求したんです。日本の企業も参加しており、外圧ではなく自分ごととして動き始めています。これは非常にエキサイティングな変化で、国際社会からも『ようやく日本が動き出した』と受け止められています」。

ESG投資家:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの要素を考慮して企業に投資する投資家のこと。


IUUという世界的課題に対して、企業や金融機関、そして政府までが同じ方向を向き始めた日本。かつては遅れをとっていたこの国も、今や国際社会に堂々と声を上げられる土台を築きつつある。「海を守る」というシンプルで普遍的な目標に向けて、変化の波は確実に広がっている。

▶︎第3回(28日公開)に続く

笹井タカマサ=写真 佐々木彩=取材・文

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