マイベスト③ ら~めん 髙尾の「冷し中華」

冷やし中華の味付けは「甘酸っぱい醤油」と「ゴマだれ」が広く認知された定番だと思いますが、昭和の昔、町の中華店が夏到来とともに、「冷やし中華はじめました」と書かれた暖簾を掲げ提供したのは、圧倒的に「甘酸っぱい醤油」でした。
それも「甘酸っぱい」というより「かなり酸っぱ旨い」と形容したくなる味。昭和の幼い子供が「梅干し」の次に驚く酸っぱい食べ物、それが町の中華店で食べる冷やし中華だったような気がします。
そんな記憶を呼び覚ましてくれる「冷し中華」を夏季限定で提供しているのが、東京・荻窪にある「髙尾」さん。非常に酸っぱ旨い、東京レトロな一杯が人気なのです。

見てください、この武骨かつ媚ない激シブなビジュアル! 錦糸たまごやハムのようなカラフルなトッピングはなく、妙に量の多いメンマときゅうりが具の主人公。
毎朝、店内で作られる太めな自家製麺は、日本そば的要素も感じる少々ボソボソッとした食感。最初、違和感を覚えそうな歯ざわりですが、食べ進めるうちに、その素朴な風味と食感に馴染んでしまう……そんなタイプの麺です。
限りなく茶色に近い麺が持ち上げる醤油ダレは、見事に、強く舌を刺すような酸っぱさ。とはいえ、酸味の強さに驚くのは最初だけで、酸っぱいものが苦手な人でも大丈夫。麺に散りばめられた黒ゴマの風味が、酸味を中和させているのでしょうか。いつのまにか気にならなくなり、食後、さっぱりした清涼感を味わえるはず。
食後といえば「髙尾」さんならではのアレに触れねば! 「冷し中華」なのに、まるで「つけ麺」のようなスープ割りをいただけるんです。タレの残った皿を差し出し「スープ割りください」と注文すると、店主さんがラーメンスープを注いでくれるのですが、暗黙の了解がひとつ。注ぎ始めて「このくらいが適量だな」と感じた瞬間に「ストップ!」を告げねばなりません。つまり、客の好みでスープ量を選べるわけです。
「スープ割り、好きなだけ飲んでってよ」と、言われたわけじゃないけど、店主の太っ腹さがうれしいですねぇ。

もうひとつ、太っ腹なのはコスパの良さ。「冷し中華」が今どき700円なのもびっくりですが、なんと「らーめん」は500円。しかも、トッピングは50円と100円の品が多数。例えば「冷し中華」に玉子、もやし、ワカメ、コーン、青菜を追加しても1000円ピッタリ。うれしすぎですわ。
旨さと安心価格と、夫婦仲良く切り盛りする店内のアットホームさで人気を維持する「髙尾」さん。オープンからまだ3年半ほどだけど、地元民に長年愛される町中華のような雰囲気が漂っています。