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「福井県の刃物工場を見学」

年に1回は日本に旅行するという会社員のリンさん(50代前半男性)。日本語が堪能なリンさんの旅行スタイルはまさに「体験を買う」ことに重点をおいたものだ。
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最近も、福井県の刃物工場を見学したリンさん。「日本の刃物は切れ味が格別に良い」。そう話すリンさんは、日本で刃物を買うつもりだったが、せっかくなら工場も見てみたいと、事前に店舗に連絡をして普段は開催していない工場見学を実現させた。

リンさんは、ガイドブックに載っているレストランには行かない。「外国人だらけで混んでいるし、値段も高いから」と理由を話す。旅先では、地元の人においしいお店はどこかと尋ね、地元の人が通う場所を訪れるのが定番だ。観光地を巡るよりも、「そこにいる感覚」を味わいたいのだという。

筆者の地元である静岡空港も、前述のように香港との直行便が最近始まったばかりだ。実家に帰りやすくなった私はとても嬉しいのだが、香港の人たちはこの静岡便をどのように利用しているのだろうか?
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友人のチェンさん一家は、最近、家族4人で「いちご狩りスポットを3か所巡る」静岡のツアーに参加した。香港のスーパーでは日本産のいちごがよく売られており、チェンさんの子どもたちも大好きだ。静岡のツアーを探していた時に見つけたいちご狩りを、すぐに予約したという。日本語が得意ではない一家だが、Google翻訳のアプリを使いながらツアーを楽しんだ。

Getty Images

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いちご狩りだけでなく、ぶどうやさくらんぼ、リンゴなど、日本のフルーツ狩りを目的に旅行する香港人は少なくない。フルーツ狩りの人気は、地元でしかできない「体験型の旅行」への需要を示している。

「ニッチな日本」の魅力を

香港人の旅のスタイルから見えてくるのは、「モノ」よりも「体験」に価値を置く消費のかたちだ。「何を買ったか」ではなく、「どんな体験をしたか」が旅の話題の中心になる。

そうした体験重視の旅を可能にしているのは、日本への圧倒的な信頼感だ。地方で言葉が通じなくても、人は親切で、安全で、街は清潔。そんな安心感があるからこそ、訪日する香港の旅行者たちはあえて観光地を外れ、地方に潜む「ローカルな魅力」を楽しむことができる。

香港人の旅のスタイルから学べるのは、単なる観光地巡りではなく、地域の暮らしを感じる体験型観光への需要といえよう。今後のインバウンド戦略は、こうした「ニッチな日本」の魅力を発信し、多様で個性的な旅の形を提案していくことが重要になりそうだ。


堀江知子(ほりえ・ともこ)◎香港在住のインタビューライター。東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒業。民放キー局で15年以上にわたり、アメリカ政治や国際情勢の取材に携わる。2022年からはアフリカ・タンザニアに拠点を移し、フリーランスとして独立。現在は香港を拠点に、グローバルに活躍する日本人の姿や、現地発のレポートを国内外のメディアに届けている。著書に『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法』(Kindle版)がある。
 


提供記事=Forbes JAPAN

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