「日常に潜む社会の闇」とは......飲みの場で相手のドリンクに睡眠薬などを混入させる。通称「レイプドラッグ」とも呼ばれ、古典的な手口だが、今なお深刻な被害が続いている。
被害に遭わないよう気を付けるべき点は? 自身もドラッグを混入されたことがあるというルポライターの村田らむさんが注意を促す。
案内人はこの方!
村田らむ●1972年生まれ。ライター、イラストレーター、漫画家。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海など、アンダーグラウンドな場所への潜入取材を得意としている。キャリアは20年超え、著書も多数。自身のYouTubeチャンネル「リアル現場主義!!」でも潜入取材や社会のリアルを紹介している。
トマトサワーが青くなって……危機一髪の事件簿
1年ほど前に、西成に住む女性に聞いた話。彼女はよく居酒屋さんに行くし、飲みに行った先で友達も作る人懐っこいタイプの女性だ。普段から明るく、誰とでもすぐに打ち解ける。
その日も居酒屋さんで30代くらいの男性と知り合いになって、一緒に飲んでいた。最初は普通の店で、ビールや焼酎を飲みながら他愛もない話をしていた。男は特に怪しい雰囲気はなく、むしろ気さくで話しやすいタイプだったらしい。
2次会では彼女の行きつけに入った。そこは小さなカウンターだけの店で、常連客が集まる場所だった。
※写真はすべてイメージです。
彼女はいつものようにトマトサワーを頼んでから、トイレに行った。トイレから帰ってきてお酒を飲もうとすると、お酒の色がおかしいことに気がついた。
「え? トマトサワーがなんで青いの?」。
彼女は目を疑った。さっき出会ったばかりの男を怪訝な顔で見ると、男は急に態度を変えて怒り出した。

「なんや! 俺はなんも混ぜてへんで!! 最初からそうだったんだろ、店長が入れたんやろ!!」
男は大声でまくし立て、店内が静かになった。急に話を振られた店長はびっくりして目を丸くした。もちろん、店長が入れるわけもない。
男は、「証拠はないだろ!!」などと怒鳴りながら、勢いよく席を立って店を出て行った。
その行動自体が証拠みたいなものではあったが、彼女は冷静にその場を見回し、男が座っていた席に目をやった。すると、そこに錠剤の包装、PTPシートが落ちているのを発見したのだ。

「調べてみたら睡眠薬だったんだよね」と彼女は笑いながら言った。
最近の睡眠薬には液体と混ぜると青くなるものがある。「デートレイプドラッグ」などと呼ばれる、睡眠薬や抗不安薬などだ。青くなるのは、犯罪を防ぐための工夫らしいが、それでもすべての薬がそうなるわけではない。
彼女は笑い話として語ったが、実際にはかなり深刻な問題だ。青くなったから判明したものの、溶かしても色が出ないタイプの薬だってまだまだある。
もし彼女がそのグラスを飲み干していたら、男の自宅に連れて帰られ……性犯罪の被害者になっていた可能性は高いのだ。
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