世界記録を更新したモデルをマッシュアップ
デザインを手がけたのは三顧の礼で迎えられたピーター・シュミット。DKNYでキャリアを積んだ気鋭のデザイナーだ。
「シュミットが『サクラメント ブラッシュ スパイク』に注目したのは、ユニークネスなデザイン性もさることながら、数奇な運命に惹かれたこともあったようです」(野崎さん)
カタログに掲載された「モストロ」のオリジン
「サクラメント ブラッシュ スパイク」はメキシコオリンピックに向けて開発されたトラックスパイクだ。しかし残念ながらひのき舞台に立つことはなかった。前年の選考会でそのスパイクを履いた選手が軒並み世界記録を塗り替えたためだ。これに世界陸連は難色を示した。いまなおそうだが、彼らはあらたなテクノロジーにはとにかく慎重だ。
記録更新の勘どころは刷毛のような極細のピンにあった。ソール本体は「ウインドサーフィンシューズ」のそれをベースとしているが、トレッドパターンはそのピンへのオマージュをかたちにしたものである。
ここで浮かぶ疑問は、「サクラメント ブラッシュ スパイク」一本で勝負してもよさそうなところ、なぜそこに「ウインドサーフィンシューズ」のエッセンスを加えたのかということだ。
こちらが底まわりのソースとなった「ウインドサーフィンシューズ」
「単なる懐古趣味ではないものをつくりたかったんだと思います。その手法はおそらくはヒップホップでおなじみのマッシュアップ。だからなのでしょう。とりわけ音楽関係者の反応がよかった。マドンナもそのひとりでした。彼女は面ファスナーをだらしなく垂らしてそのスニーカーに足を滑り込ませました」(野崎さん)
くだんのファッション・ウィークの会場では最新作を履いたシンガーソングライターのダヴィドやラッパーのスケプタが目撃されている。
3/3