OCEANS

SHARE

隠された意味が深い6曲目


6曲目には特に濃厚な内容である「reincarnated」があり、直訳すると「生まれ変わった」という意味だが、HIPHOPファンなら聴けば誰でも感じららるほど、今は亡き偉大なラッパー、2PACのフロウ(歌い方)を完璧にコピーしている。

ビートにも1996年にリリースの2PACの曲「Made Niggaz」をほぼそのまま使ったサンプリングが入っており、90年代にHIPHOP業界を良い意味で騒がしてた2PACの「生まれ変わり」であることを示すだけでなく、それ以外にもさまざまな意味を含めている。


「reincarnated 」より引用

この曲は基本的に3つのパートに分かれており、1つ目は1940、50年代に活躍した有名なギタリスト、ジョン・リー・フッカーの目線でラップ、2つ目は1960年代に活躍した女性シンガー、ビリー・ホリデイの目線でラップ、3つ目はケンドリック自身が父親と会話をしている様を描いたパートに分かれている。

最初の2つのパートはケンドリックの前世であり、タイトルのニュアンスにある「輪廻転生」的な思想を元に、自身が前世でやってきた「罪」を最後のパートで父親にアドバイスと許しを求めるという構成だ。

父親とは設定だけであり、「神様」との対話というスピリチュアルな観点も取り入れ、キリスト教的に救世主であるイエス・キリストが神の子である部分と、自身をHIPHOPの神の子であるところとで結びつけている。

さらに、悪魔になってしまった堕天使ルシファーのこともしっかり意識していて、前世で行ってきたケンドリックの罪は悪魔の影響であることも表すというスピリチュアル的にも物すごく深いリリックだ。



もう一つ隠された意味として、HIPHOP業界の状況を時代別に説明している要素もある。1つ目のギタリストはお金とセックスを求め過ぎて、音楽に対する愛を失った状態で亡くなってしまったという内容だが、90年代後半から2000年代前半にかけて、HIPHOPで売れる曲が主にお金とセックスを全面的にラップしたものだったことを意識している。

前述のビリー・ホリデイは、筋金入りの薬物中毒者だったことで知られているが、2010年頃から現在にいたるまでHIPHOPで売れる曲の内容は薬物摂取や性的な描写を美化する内容が多いのである。

つまり、ケンドリックは多くの人に良い内容の曲を意識させ、HIPHOP業界の罪を浄化するためにこの世に生まれ変わったことを示している。ひいては自身がHIPHOPの救世主であることまで訴えている濃厚なリリックなのである。

こんな感じで「GNX」はミックステープ全体を通してHIPHOPを良くしようとする意識を元に、それ以外にもさまざまな意味を言葉遊びと比喩表現で隠しながら示す素晴らしい作品なのだ。


5/5

次の記事を読み込んでいます。