写真=TSTエンタテイメント
「HIPHOP Hooray feat.SGD」とは…… ShotGunDandy(ショットガンダンディ)さんにHIPHOPにまつわるアレコレについて解説してもらう本連載。
今回は、『チーム友達』『Mamushi』で世界中を席巻しているアーティスト、千葉雄喜を徹底解説!
案内人はこの方! ショットガンダンディ(ShotGunDandy)●HIPHOP解説者。幼少期から沖縄で育ったマルチリンガルのアメリカ人。HIPHOPの深い知識を活かして楽曲の和訳やスラング、メッセージやリリックの意味などをYouTubeなどで解説し話題を呼んでいる。ビートサンプラーバトル「King of Flip 2023」ではベスト4入り。 Instagram:@shotgundandy X:@ShotGunDandymk3
皆さんいかがお過ごしでしょうか? ShotGunDandy参上です。
今回は、今年『チーム友達』で世界中に衝撃を与えた、今最も世界に近い日本人ラッパーである千葉雄喜について書かせて頂こうと思います。
以前はKOHH名義で超大物アーティストと客演
はじめに千葉雄喜がどのようなラッパーなのかをざっくりと紹介します。
千葉雄喜は2012年頃から「KOHH(コー)」という名義でラッパーとして活動していました。数々のミックステープやアルバムをリリースする中、2015年に韓国でかなり人気のあるラッパー、キース・エイプ(Keith Ape)の曲『It G Ma』に客演しましたが、この曲のミュージックビデオがYouTubeにアップされると世界中で大ヒット。
これをきっかけに世界的人気のスターシンガーであるフランク・オーシャン(Frank Ocean)の『Nikes』という曲にも客演で迎え入れられるという快挙を成し遂げて、日本のHIPHOPシーンにかなりの衝撃を与えました。
それだけに留まらず、その後もマライア・キャリーの『Runway』という曲のリミックスにも客演で迎え入れられたり、宇多田ヒカルの『忘却』という曲にも参加したり、NHKでKOHHの特集が組まれたり、パリコレのファッションショーにも参加したり……。幾度となく日本のHIPHOPシーンに衝撃を与え続けました。
そんな人気絶頂に達したであろう2020年に引退を表明し、2021年に正式にラッパーとしての活動から身を引きました。KOHHのプロデューサーとして裏で支えていた318という人物と、「人気が絶頂に達したら引退する」という活動開始時に交わした約束だったといわれており、初めから計画していたようです。「絶頂で引退する」なんて、粋で格好良いと思います。
一体KOHHのどこが凄いのか?
では、KOHHのどこが凄いのか? なぜ彼はここまで人を魅了できたのか? 完全に個人的な解釈であることを大前提にお話しします。
彼がHIPHOPの世界に足を踏み入れた当時、アメリカでは「トラップ」というサブジャンルが大流行していました。トラップは基本的に薬物の売買や使用がはびこっていたアトランタに生きる黒人たちのコミュニティによって出来上がったスラングですが、そういう環境の中で育ったラッパーたちが、自分たちの人生を赤裸々にラップするHIPHOPのサブジャンルの名前にもなりました。
異常な速さで打ち込まれるハイハットなど、一聴すれば一発でわかる独特なビートもトラップの特徴のひとつ。やんちゃなことを歌う曲のビートとしてぴったりと合い、それが格好良くて大流行したというのもあります。その独特なビートは「トラップビート」と呼ばれるようになり、KOHHは日本の中でも早い段階でトラップビートを取り入れて当時の日本のHIPHOPシーンが進む方向をシフトさせた第一人者なのです。
2010年代中盤頃にKOHHが出てきて以降、日本中でトラップビートに乗るラッパーたちが急増したのを今でも覚えています。KOHHの凄さには「日本のHIPHOPシーンを変えた功績が大きい」という点もあります。
リリックもかなりすごいです。彼のリリックを「小学生の作文みたい」だと多くの人が言いますが、それはディスりではなく、「小学生の作文みたいに単純なリリックだからわかりやすい」という感じで逆に褒めていて、一回聴いただけで内容が聴き手の耳にすんなり入ってくるのです。
さらに、KOHHはある時期から曲のラップを、スタジオに入ってから即興で録音しているらしいのです。本人も「事前にリリックをちゃんと考えて描くと、色々凝りすぎてダサくなってしまう。即興の方が粗削りで格好良い」と述べていますが、曲を聴くと即興だと思えないほどの完成度の高さで感動すらします。
KOHHは、当時日本ではまだ流行ってなかった最先端のトラップビートの上で単純なのに格好良いラップを乗せ、日本のHIPHOPシーンを変えたカリスマ性が高すぎるラッパーなのです。
2/3