星の位置づけのおさらい
ミシュランガイドにおける星の位置づけは次のとおりだ。
三つ星:そのために旅行する価値のある卓越した料理
二つ星:遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理
一つ星:近くに訪れたら行く価値のある優れた料理
ビブグルマン:価格以上の満足感が得られる料理
「ミシュランガイド東京2025」の掲載数(画像:日本ミシュランタイヤ プレスリリース)
また、持続可能なガストロノミーを意識し活動している店を顕彰する「ミシュラングリーンスター」には、12軒が選ばれた。
かつては二つ星から三つ星への昇格に10年以上かかるのが普通だったが、最近ではパリ・小林圭氏の「Restaurant KEI」が二つ星から3年で三つ星に昇格(2017年に二つ星、2020年に三つ星)したように、昇格までの年数が短くなる傾向が読み取れる。
小林氏は今回、東京でも自身の監修店「エリタージュ バイ ケイ コバヤシ」が新たに一つ星、「ケイ コレクション パリ」がセレクテッドに選ばれた。
また小林氏は、木村拓哉氏や鈴木京香氏が出演するドラマ「グランメゾン東京」の劇場版映画として2024年冬に公開される『グランメゾン・パリ』の料理監修も務めており、「ミシュランガイド東京2025」の発表セレモニーには木村拓哉氏と玉森裕太氏がゲストで登場した。
2025年に新しく星を獲得したのは15軒。そのなかで「クリエイティブ」という新たなカテゴリーで「山」が一つ星を獲得した。
「山」は、デザートを中心にしたレストランだ。作り立てのデザートのその時限りのおいしさを数品のコース料理仕立てで提供する。
デザートが独立してひとつのコースを提供するレストランはここ数年増えており、その中でも「山」は最も知られた店の1軒だ。同じカテゴリには、セレクテッドでもう1軒「ハルカ ムロオカ」が選ばれた。
2024年新設、星の数より多い「セレクテッド」とは
ミシュランの「セレクテッド」は、東京版では2024年から始まった。星についで「ミシュランがお薦めする料理」という、選定基準に比較的含みのある位置づけだ。
セレクテッドは東京では設定されてまだ2年目にもかかわらず、現在227軒が選定されており、一つ星から三つ星をすべて合計した170軒よりも多い。
セレクテッドの内訳は、ミシュラン公式サイトで2023年から始まったお薦め店の「先行公開」店舗を中心に、かつて一つ星やビブグルマンだったレストラン、また、開業して年数が経っている店も順次追加されている。
セレクテッドには歴史ある店も散見され、2025年にはたとえば京橋の「シェ・イノ」(1984年開業)や銀座の「ロドラント ミノルナキジン」(2008年開業)などが新たに選ばれている。
セレクションの全体像の変化
ここで、今回の東京のセレクションから何が読み取れるか、一歩引いて全体像から見てみたい。セレクテッドに選定されたレストランの増加で全体の掲載軒数が増えたことで、セレクション全体としては一定のクオリティのレストランを探す選択肢が広がった。
一方それと引き換えのように、ここ2年で二つ星、一つ星、ビブグルマンの軒数が減っている。
昨年(2024年)は、前年の一つ星が10%(11軒)減り、ビブグルマンが222軒からほぼ半分になった。今年(2025年)もその傾向がより進んでいる。料理カテゴリーでいえば、イタリア料理の星つきレストランは5年前に12軒だったのが、2025年には8軒になってしまった。フランス料理は5年で52軒から49軒へ。
注目度の高いラーメンは星つきが0軒になり、最も星のついた軒数が多いカテゴリーである日本料理も、5年前の63軒から56軒に減っている。星が減ると、その店の料理の質が下がったのではと考えてしまいがちだが、個々の店の料理の質がこの2年で一斉に変化したとは考えにくい。
そのため、ある店の星がなくなったとしても、その店の味が急に落ちたとは言い切れないだろうし、星を現時点でも維持している店舗の価値が、相対的に高くなったということもできる。
ミシュランガイドのインターナショナル・ディレクター、グウェンダル・プレネック氏は2024年、CNNのインタビューに対して「ミシュランガイドの調査員は、否定的な評価は一切下さない」と語っている。「我々は決して批判しないし、調査員は批評家ではない」これはミシュランガイドの精神を表す重要な言葉だ。星の数は、お薦めの度合いが変わるだけ、という意図が読み取れる。
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