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もちろん、昼間もサラリーマンを中心に多くの客が訪れるが、しずおか弁当は夜に主眼を置いた戦略であみ焼き弁当の知名度を高めていったのは間違いない。ところが、2020年のコロナ禍で状況は大きく変わる。全国の繁華街がそうだったように、平日でも多くの人々で賑わっていた両替町も例外ではなく、街から人が消えてしまったのだ。

「感染拡大の状況に応じて、22時閉店や0時閉店など時短営業を行っていました。売り上げはコロナ前よりも20%減になりました。そこで夜がダメなら朝に勝負してみようと、おにぎりやサンドイッチなど朝ごはん用のメニューを用意して、10時だった開店時間を2時間前倒しして8時にしました。すると、通勤時にコンビニに立ち寄るような感覚で来店されるお客様が増えていきました」(森谷さん)

新規顧客拡大への挑戦

もう一つ、コロナ禍で森谷さんが考えたのは、店を訪れる客層だ。あみ焼き弁当に限らず、ほかの弁当もコンビニで売られているものより価格が安いにもかかわらず、若い世代や女性が少なく、メインは40代以上の男性だったのだ。

「今まで店に足を運んだことのない新規のお客様、特に女性のお客様に来ていただきたいと思いました。そこで社内に製菓部を立ち上げてクッキーやフィナンシェ、カヌレなどを作って販売しました。インスタから徐々に女性のお客様が増えて、当時流行っていたマリトッツォをいち早く売り出したところ一気に火がつきました」(森谷さん)

マリトッツォの進化版「プリンアラモードッツォ」(右)とチョコプリンアラモードッツォ」(各650円※現在は販売休止)。現在、スイーツの販売は週末のみだが、人気は高い(写真:しずおか弁当)

マリトッツォの進化版「プリンアラモードッツォ」(右)とチョコプリンアラモードッツォ」(各650円※現在は販売休止)。現在、スイーツの販売は週末のみだが、人気は高い(写真:しずおか弁当)


他の店もマリトッツォを扱うようになった頃、遊び心でクリームの代わりに食感がかための昔ながらのプリンを丸ごと挟んだ「プリンアラモードッツォ」を出したところ、これも大人気となった。女性客にはスイーツだけではなく、弁当も売れた。また、常連客も弁当とスイーツを併せて購入するようになった。

コロナ前までは6対4で昼よりも夜の売り上げのほうが多かったが、コロナ収束後はそれが逆転し、売り上げも10〜15%ほどアップした。言うまでもなく新規顧客の拡大が売り上げアップの要因だが、値上げが続く今、牛丼やうどんのチェーンでサイドメニューも注文すると1000円近くになるので、手作りでおいしい弁当が好まれるという背景もあると思う。

「味をチェックするために私は毎日あみ焼き弁当を食べていますが、そのたびにおいしいなぁって思うんですよ」と、森谷さんが語ったひと言にあみ焼き弁当が1日1000個売れる秘密と、しずおか弁当の底しれぬパワーを垣間見たような気がした。今後もあみ焼き弁当を食べるために静岡方面の企画を編集部に提案しようと思っている。



永谷正樹 =文
東洋経済オンライン=記事提供

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