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なぜ漁が減った話は、表面化しなかったのか

Chefs for the Blue代表理事 佐々木ひろこさん●大阪府生まれ。米国でジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学んだのちに帰国。食文化やサステナビリティを主なテーマにフードジャーナリストとして活動する。一般社団法人Chefs for the Blueを2018年に設立して代表理事に就任。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。水産庁の水産政策審議会特別委員。

Chefs for the Blue代表理事 佐々木ひろこさん●大阪府生まれ。米国でジャーナリズムと調理学を、香港で文化人類学を学んだのちに帰国。食文化やサステナビリティを主なテーマにフードジャーナリストとして活動する。一般社団法人Chefs for the Blueを2018年に設立して代表理事に就任。ワールド・ガストロノミー・インスティテュート(WGI)諮問委員。水産庁の水産政策審議会特別委員。


魚が減ったという日本の食文化の根幹を揺るがす事実がありながらも広く伝えられることはなかった。背景には多くの理由があるとし、そのひとつとして、漁場の取材がまれであることを挙げる。

「多くの食材の中でも、魚の場合は生産のゼロ番地を訪れることがほぼありません。野菜なら農家さん、食肉なら畜産農家さんに話を伺うものですが、魚は市場の目利きに話を聞いて終わるのが大半なのです。

それはなぜかと考えたとき、その目利きの話が面白い、というのが理由の1つ。読者の関心を引くであろう話を聞かせてくれるからです。

もう1つは漁船に乗って漁の現場に行くことが簡単ではないということ。かろうじて取材をさせてもらえるのは水揚げの現場ですが、出漁するかどうかは天候に左右されてしまいます。

ゆとりのある日程を組めるメディアでないと取材自体が難しいのです」。

実務的な理由と読者に求められるコンテンツを考えたとき、一般的な取材場所は市場となり、内容にジャーナリズムはほぼ必要とされなかった。

そのため農作物の課題は多くの記者やライターが取材・執筆している一方、水産物のそれが表面化する機会は乏しく、事実を知ったときのショックが大きなものだったのは記したとおり。

「日本の食の中で最も価値があるのは魚」だとする思いもあったゆえ、なおのことだった。

「日本の魚は世界に誇れる食材です。実際、日本の魚を食べるために多くの人が海外からやってきます。これは他の食材にはあまり見られない現象でひとつの指標と言っていいでしょう。

さらに天然であることが何よりもの価値だと考えます。人が育てるものではなく、日本の海でしか育てられない天然魚であることが、ほかの美味しい食材とはまったく異なる存在感を生み出しているのです」。

サバの味が三陸と日本海では異なるように、多様性に溢れるからこそ世界のシェフたちは日本の魚の扱いを学びたいと思う。そしてその味が脅かされているから、佐々木さんは守り、継承したいと考えている。


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