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Chefs for the Blueが目指す未来

ジャーナリスティックな視点が求められることの少ないフードメディアに身を置き、日本の魚の危機を知りながら「自分だけの力ではどうにもならない」と落ち込み、思考を巡らせた。

思いついたのが毎日のように顔を合わせるシェフたちの協力を得ることだった。

まずは東京のトップシェフ30人と勉強会を始めた。場所は北参道にある一つ星フレンチ「シンシア」。オーナーシェフの石井真介さんが佐々木さんの声かけに賛同したことによる。

ほかにも声をかけたシェフは総じて参加。調理場に立って数十年に及ぶベテランたちは、長いキャリアの中で魚の異変に気付いていたのだ。

オーダーどおりに魚が揃わないことが増えた。サイズもまちまち。クオリティが落ちている。仕入れの内容が明らかに変わり、けれど理由は定かではない。

そこで生まれた「なぜ?」という気持ちがモチベーションとなり、勉強会に足を運ばせた。

勉強会で佐々木さんはファシリテーターとなり、テーマに応じて招いた専門家に問い、アンサーをメンバーたちと共有していった。

「半年くらいが過ぎて、みんなの目の色が変わっていきました。このままでは日本の水産資源は絶対に続かない。私たちが知っているだけでも変わらない。皆さんに知っていただき、仲間を増やしていこう。

その思いが発端となってChefs for the Blueをスタートしたんです」。

活動内容の軸は海と魚のリアルを伝えることにある。料理人たちによるトークイベントや、企業とのコラボによるレシピ・商品開発、飲食店関係者を対象とするセミナーなど、プログラムは多岐にわたった。

だが発足時は漁業法の改正前であり、水産庁は表立って「魚が減っている」という危機感を発表してはいなかった。その当時を「真っ暗闇の中を走っている感じだった」という佐々木さんは、それでも現状を伝え、仲間を増やすべく奔走していた。

風向きが変わったのは20年に改正漁業法が施行されたとき。資源管理を科学的根拠に基づいて行い、持続可能な水産業を目指す指針が表明されたのだ。

約70年ぶりの法改正に、佐々木さんたちは社会が大きく動いたと感じた。そして自分たちの行動の正しさに確信を持つことができた。

「魚が減った背景には理由があるんです。環境の変化はそのひとつで、国土開発の影響がとても大きかったのだと思います。

ダム建設により生き物が海と川の間を行き来できなくなり、針葉樹の植林や護岸工事で山からの養分が海に届かなくなった。

さらには乱獲。本来、海は再生産するものなんです。魚は卵を生み、増えていってくれるじゃないですか。

よく銀行の預金にたとえられるのですが、元本はキープし、利息分の数だけを獲っていれば水産業の持続可能性は永遠に保てるわけです。

欧米では魚種ごとに1年の再生率を計算し、そのデータをもとに漁獲量を毎年決定するなどしていますが、日本では改正漁業法の施行によってようやく漁獲量を規制する管理手法が原則となりました」。

日本の海の美味しさを未来へつなぐ。そのためChefs for the Blueでは水産庁長官に「海の未来を守るため」の提言書を提出し、シェフと学生が併走しながらオンライン講義、産地フィールドワーク、レストラン研修を経てポップアップレストランを開店させるTHE BLUE CAMPというプログラムもスタートさせた。

行政機関という国のトップと、次世代への種まきというボトムの両方からアプローチをし、本気で日本の海を守ろうとしているのだ。

Getty Images=写真 小山内 隆=編集・文

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