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メキシコを満喫。キーワードは「トランキーロ」

カルチャーショックといえば、入国してまもなくの頃こんな出来事がありました。メキシコに入って緊張が続いた僕の心を解きほぐしてくれた、少年との出会いです。

失礼ながら、メキシコは治安が悪いというイメージが先行していました。特に国境付近は危険だとよく聞いていましたが、実際、有刺鉄線に武装した警官、そして微塵もわからないスペイン語...... どこか物々しい雰囲気にのまれ、自転車を見る人々の視線もこれまでの旅とは違うように感じました。

「とにかく早く、ここから離れよう」。必死にペダルを漕ぐも、車道では我が物顔で車がクラクションをならしながら右に左に車線変更を繰り返し、逃げるように歩道に入っても、まるで階段のような凹凸のスロープが続いて結局また車道に戻るという調子。やっとの思いで高速道路にたどり着き、整った路側帯が現れてほっとしたのも束の間、後輪がパンクしていることに気がつきました。

仕方なく道路沿いに公園を見つけて修理を始めると、後ろから「キコキコ」と奇妙な音が近づいてきました。

誰か近づいてきた!と睨むように振り返ると、そこにいたのは5歳ぐらいの男の子。チェーンの錆びきった三輪車に乗ってニヤニヤしながら「¿De dónde eres?(どこから来たの?)」と話しかけてきました。

この定番のスペイン語の質問にも答えることができない僕は、苦笑いで自転車を指さしてジェスチャーでパンクを伝えてみるも、今度は僕の周りをぐるぐる周りながら質問攻め。唯一知る単語「japonés!(日本人!)」を笑って連呼するしかなく、ようやく20分後、パンク修理を終えて再び出発しました。

すると、あろうことか男の子が三輪車でついてくる...。どうやら僕の自転車を随分気に入ってくれたらしく、伝わるはずのない日本語で「一緒に行くかい? アルゼンチンの南端まで!」と聞くと、彼はニコニコしてうなずくのです。思わず笑みがこぼれたところに、ようやくお父さんらしき人が呼び戻しにやって来て、彼は笑顔で「Adiós !!(じゃあね!)」と手を振って、キコキコと帰っていきました。

僕も「Adiós...」とつぶやき走り始めたこの時、張り詰めていた気持ちが和らいでいたことに気づきました。国・文化は違えど、心温まる家族の日常があり、人の暮らしの根本は普遍だと。

お礼も言えず、名前を聞くこともできなかった少年とのほっこりする出会いに感謝しながら、「tranquilo(トランキーロ=落ち着いた)」な旅を楽しむ準備ができた僕は、予定通り観光地を訪ねながら、南へと向かいました。

ユカタン半島北部ウシュマル遺跡周辺のキャンプ場

ユカタン半島北部ウシュマル遺跡周辺のキャンプ場


とは言え一方で、野宿するのに危険を感じ、少しでも安全な場所を探して、消防署に行き着く... といったことも。消防署はそうした自転車旅人たちの野宿スポットにもなっていて、僕もたくさんお世話になりました。

やはり身の安全には常に十二分に注意する必要があります。


4/6

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