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2024.08.05

あそぶ

自転車で地球を巡る約10万kmの旅。アラスカでカヤック川下り、クマとの共存、アメリカ3大国立公園……

アラスカ・ハイウェイ

アラスカ・ハイウェイ


当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。

パンダをはじめ約120種・約1600頭の動物たちが暮らす「アドベンチャーワールド」(和歌山県白浜町)の元イルカトレーナー、武藤大輔さんが「自転車で75カ国、300カ所以上の自然・文化遺産を巡る約10万kmの旅」に挑戦しています。

これまでまずは北米大陸から、アラスカを昨年5月下旬に出発して、カナダ、ウエストコースト、メキシコ、ベリーズ、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカ、パナマと旅してきました。

大学で海洋生物について学び、在職中には次世代リーダーが集う国際サミット「one young world 2019 in London」で海洋プラスチック問題に関するディスカッションに参加するなど、動物たちを通した社会・環境課題の解決に取り組んできた武藤さんが、旅先で出会った絶景や動物たち、そして自然・文化との共存・継承のための知恵や工夫などについて、レポートします。
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自転車地球旅「Cycle Earth 〜World Bicycle Journey」Road map

自転車地球旅「Cycle Earth 〜World Bicycle Journey」Road map



皆さん、こんにちは! 7年間かけて75カ国、132カ所以上の自然遺産と190カ所以上の文化遺産への訪問を目標に、自転車で地球を旅しています、武藤大輔と申します。

僕は2017年にアドベンチャーワールドの運営を行うアワーズに入社して、主にイルカ・クジラといった鯨類の飼育や環境問題に取り組む仕事に従事し、2019年には「ワン・ヤング・ワールド」という地球規模の課題について話し合う国際サミットに参加する機会がありました。

そこで、多くの問題を抱えるこの地球で今後自分が取り組むべきことはなんなのか?ということを、見る・聞く・触れる、とにかく五感を全て使って大好きな自然や文化を体感しながら確かめたいと思い、始めたのがこの自転車地球旅「Cycle Earth 〜World Bicycle Journey」です。

この旅で出会った自然や文化を、写真や映像とともに皆さんに全力でお伝えしていきたいと思いますので、ぜひご一緒に旅する気持ちでお付き合いいただけたら嬉しいです!

まさに壮大── アラスカ、カナダの大自然

それではさっそく今回の旅の出発地、アラスカとカナダの旅から、お届けしてまいりましょう。皆さんはアラスカやカナダというとどんなイメージをお持ちでしょうか?

そう、大自然──。本当にこの一言に尽きるほど、圧倒的な自然が僕を迎えてくれました。

冒頭の写真は、アラスカの玄関口・アンカレッジ国際空港に昨年5月下旬に到着し、バラバラに分解して持っていった自転車を段ボールから出して再び組み立て、最初の目的地であるウィッターという街に向かっている時の一枚です。

思い描いていた山々の情景がまさにいま目の前に広がっている!と感動を覚えたものです。

北緯が高く、日がなかなか沈まずに夜の12時頃まで明るくて、時差もあいまって、最初ちょっと体が慣れなかった、なんてこともありました。

氷河のパワーに圧倒 一方、近年融解が問題に

そしてなんといっても氷河ですよね!

氷河を見られる場所は多くありますが僕は、キーナイ・フィヨルド国立公園にカナダの秘境・サーモングレイシャー、ジャスパー国立公園/バンフ国立公園のコロンビア大氷原と名所を満喫しました。

アイアリック氷河(キーナイ・フィヨルド国立公園/アラスカ)

アイアリック氷河(キーナイ・フィヨルド国立公園/アラスカ)


サーモングレーシャー(カナダ)

サーモングレーシャー(カナダ)


コロンビア・アイスフィールド アサバスカ氷河(ジャスパー国立公園/カナダ)

コロンビア・アイスフィールド アサバスカ氷河(ジャスパー国立公園/カナダ)


ただ、コロンビア大氷原でもらったパンフレットによると「1919年から2009年の間にコロンビア大氷原は面積の23%(60平方キロメートル)を失った」とのこと。また、上の写真を撮ったアサバスカ氷河では過去125年間で半分以上の体積が消失したと言われています。

実際に氷河を歩いている時も、氷の上を解けた水が流れていく様子を確認することができますが、温暖化などの影響によってその解け出す量が増えてきているのです。

こうした氷河の融解は世界的にも問題になっており、海面上昇など様々な影響が懸念されています。あらためて温暖化対策について、今すぐできることから取り組んでいきたいと実感しました。

アサバスカ氷河|標識は1908年の氷河の末端の位置を示している(Photo by Marli Miller/UCG/Universal Images Group via Getty Images)

アサバスカ氷河|標識は1908年の氷河の末端の位置を示している(Photo by Marli Miller/UCG/Universal Images Group via Getty Images)


短い夏がやはりベストシーズンかも!

アラスカからカナダにかけて訪れた頃の気温は大体10度前後で、ちょうどこれから夏に入っていくというところ。夜には氷点下になる時もありましたが、場所によっては雪が解け始め、地面の下に眠っていた植物たちに光が当たって芽吹き、花を咲かせ始める、といった季節の変わり目を感じられる最高のタイミングでした。

こちらは有名な観光地にもなっている「デナリ国立公園」で撮った一枚です。

自然保護区ということで、後ほど詳しくお伝えしますが多くの野生動物が暮らしており、ありのままの自然が楽しめる人気のスポットです。

デナリ国立公園(アラスカ)

デナリ国立公園(アラスカ)


さらに南へと進むと、氷河や永久凍土が解け、美しいターコイズブルーの川や湖を目にすることができました。

世界遺産・カナディアンロッキーのハイライト、ジャスパー国立公園とバンフ国立公園での写真です。

氷河から流れ込んだ石灰などの微粒子が水中で太陽の光を乱反射させ、こうした色合いをみせるのだそうです。

マリーンキャニオン(ジャスパー国立公園/カナダ)

マリーンキャニオン(ジャスパー国立公園/カナダ)


ペイトレイク(バンフ国立公園/カナダ)

ペイトレイク(バンフ国立公園/カナダ)


アラスカといえばオーロラをイメージする方も多いと思うのですが、夏にはほとんど見られません。

理由は冒頭でお伝えしたように夜でも明るいからで、期待していなかったのですが、ジャスパー国立公園に入る前に奇跡的にカメラで収めることができました。

パンクした際の予備チューブ購入のために入った自転車店で知り合った、街の伝説の自転車乗り・ケビンの家の庭にテントを張って野宿させてもらっていると、空になにやら白いモヤモヤが......。雲とは違う動きに見えたので、カメラを準備してシャッターを切るとびっくり!

モニターに色のついたオーロラが映っていました。

ジャスパー(カナダ)

ジャスパー(カナダ)

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自然と人間の本質に触れた、カヤックでの川下り旅

そして、カナダとアラスカを流れるユーコン川を、カヤックをレンタルして1週間ほど旅しました。実はこの時が旅してきた中で一番自然を感じたひとときだったかもしれません。

ユーコン川

ユーコン川


食事を1週間分カヤックに積み込んで、ゆったりと美しい風景や動物たちを眺めながら川を下り、お腹が空いたら川岸に上がって火を焚き食事。夜は満天の星空の中、川の音をラジオ代わりにテントで熟睡と、実に贅沢な時間を過ごしました。

電波も入らなければ、人とも出会わない。音や風にもすごく敏感になって、普段は気づけない動物の気配を感じたり、感覚が研ぎ澄まされていくようでした。

そして気づけば、家族や大切な人のことを考えていました。
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こうした圧倒的な自然の中に一人でいると、人はやっぱり寂しくなるんですね。人間社会がいかに人の心のサポートになっているかを実感しました。人が一緒に暮らすことは、もちろん生物的に有利な面も大きかったのでしょうけど、心の面でも安定につながっているのだと。

一人旅でも全然余裕だと思っていた僕が、思いも寄らないところで自分を見つめ直すことができた、学び多きカヤック旅でした。

ユーコン川

ユーコン川


こんなにも身近に出会える、アラスカ、カナダの野生動物たち

もちろん、この大自然に囲まれて多くの野生動物たちが暮らしています。ここからは身近に出会えた動物たちをご紹介していきます。

まずは、アメリカの国鳥・ハクトウワシから。

日本だと動物園などでしか見られないですが、アラスカからカナダにかけてたくさん住んでいて、特にアラスカのキーナイフィヨルド国立公園、カナダのユーコン準州では毎日のように見ることができました。

かつてはアメリカで絶滅危惧種に指定されていましたが、法律による保護対策によって40年かけて生息数を回復させたそうです。

水面の獲物を探すハクトウワシ(ユーコン川/カナダ)

水面の獲物を探すハクトウワシ(ユーコン川/カナダ)


続いては、アメリカビーバーです。

湖や川に住んでいて、僕はアラスカのタルキートナレイクの湖畔で野宿していた時に出会いました。

夜9時頃、テントの中で寝る準備をしていた時に「パンパンパン」という水面を叩くような音が湖のほうから聞こえてきて、なんだろうと思っていたのですが、翌日そこに草をくわえたアメリカビーバーがすいすいと泳いでいるではありませんか!

興奮しながら急いで撮影した動画がこちらです。



デナリ国立公園では、ムース(ヘラジカ)とカリブー(トナカイ)を見ることができました。

カリブー(トナカイ)はシカ科で唯一オスにもメスにも立派な角が生えますが、ムース(ヘラジカ)は角があるかないかで、オスかメスかを見分けることができます。

体長は2〜3メートルと大きく、目の前に現れると迫力があります。

ムースのメス(デナリ国立公園/アラスカ)

ムースのメス(デナリ国立公園/アラスカ)




カリブー(トナカイ)との出会いは、それはもうとても衝撃的なものでした。

公園の奥地を求め、自転車と小分けにした重い荷物を何度も行ったり来たり運びながら、川を進んでいたら、カリブーが爆走して来たんです。動画の中央奥にご注目ください。

轢かれたら僕も自転車もひとたまりもありません。本当に怖かったですよ、“ビビり倒し” ました(苦笑)



そして怖いといえば... そうです、クマ。ブラックベアーとグリズリー(ハイイログマ)の登場です。

自転車を漕いでいると、すぐ横をのらりくらりと歩いていたり、車と違ってあまり見慣れていないのか、ビックリした様子で森の中に走っていったりします。

今回20頭ぐらいと出会いましたが、幸い僕は危険な目に遭うことはありませんでした。ただ距離も近く、足も速いので、相当怖かったです。

ブラックベアー(カッシアハイウェイ/カナダ)

ブラックベアー(カッシアハイウェイ/カナダ)




「ベアーカントリー」における野生動物との共生の知恵

では現地の人々は、そんなクマや野生動物たちとどのように付き合って暮らしているか、についてお伝えしていきたいと思います。

ベアーカントリーと言われるほど、アラスカには多くのクマが生息しており、ブラックベアーが約10万頭、グリズリーが3万頭ほどいると言われています。

人口が約73万人、日本の約4倍の面積で全米最大の州であるアラスカで、豊かな自然と生態系が保たれることの重要性を、人々はとてもよく理解しています。

日常の暮らしの中で人よりも断然よく出会うクマや野生動物たちのために人間ができることを、地元の人々やレンジャーが昔から考え、当たり前のこととして実践し続けています。

野生動物たちに餌を与えたり、近づくことを禁止し、ドライバーに運転注意を呼びかけるための標識や、クマの出没情報を共有するための案内ボードなどが設置されていました。



さらに、バックカントリーと呼ばれる、ありのままの自然を楽しむアウトドアアクティビティの場では、動物たちとの距離がぐっと近くなります。例えばデナリ国立公園には、レンジャーさんたちから滞在に必要な情報や知識を教えてもらうための案内施設があり、守るべきルールも存在していました。

基本的に食材は全て「ベアー缶」に入れて持ち歩き、キャンプ場などには荷物やゴミ箱を入れるためのロッカーが設置されています。外に放置していると、鋭い嗅覚を持つ動物たちにあっという間に荒らされてしまいますし、何より危ないですからね。

やはり危険な状況でクマや野生動物たちと遭遇しないための行動を徹底することが大原則とされています。



その指標の一つとなるのが、野生動物たちとの距離感です。

安全な距離として、例えばムースは100m、クマは300mと現地のレンジャーに教わりました。また、その距離をフィールドで瞬時に判断するのは難しいので、体の前方に腕を突き出してグーサインして、親指に隠れるサイズならムースは安全な距離感、同じように小指を出して収まるならクマとの安全な距離感と判断できるとのことでした。

野生動物に出くわしてしまった時には──?

そして、それを超えて相手が近づいてきた場合には、まず大きな音を鳴らす、声をあげるという行動を取ります。もしテントを張っているなら揺さぶって体の一部に見えるようにしなさいとも言われました。相手に自分の存在を認識させるのが目的で、近くに物があればそれを使って、自分を大きく見せるのも効果的とされています。

それでもさらに近づいてきたら、ムースやカリブーの場合は横にステップを切って避ける。多くの動物に対してもそうですが、背中を見せて逃げるのは危険です。

クマの場合にはベアスプレーの出番となります。唐辛子を主成分とし、嗅覚の鋭いクマにとって脅威となります。うつ伏せになって、首の後ろで手を組んで防御しながら顔とお腹を地面で守り、近づいてきたタイミングで不意打ちを狙いながらスプレーをクマの顔面を目掛けて発射する、というのがレンジャーから教えてもらった方法です。

クマ、野生動物を前にして、落ち着いてこうした行動をとれるかが最大の課題になりそうです。



アラスカでは、地元の人と話す度に「ベアスプレーは持っているか?」と聞かれるほどで、このような様々な対策は、文化と言えるほどに定着していました。そして、その背景にある思いを、とあるバーで出会ったオーナーの一言から感じました。

「クマや野生動物たちが暮らす自然の中に僕たちは住ませてもらっている」。

現代社会に暮らす中、忘れていた大切なことを思い出させてもらった気がしました。
3/5

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