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多角的に進化した"魔法の絨毯"


気がつけば運転席ですっかりリラックスしていた。交差点の右左折もむしろ楽しく感じてしまうほど、SPECTREは意のままに減速し、ステアリングを操作したとおりにコーナリングし、そして加速する。

やはり、SPECTREも「魔法の絨毯」だった。それを実現する大きな要因が、もともとゴースト向けに開発されたプラナー・システムを進化させた、プラナー・サスペンション・システムだ。デジタル・エンジニアリングにより道路状況や天候状況、対地速度などさまざまな変数を超高速で処理し、サスペンションを適正に働かせる。

さらに、ボディ剛性を30%アップさせたことで車体のねじれがこれまでのモデルよりも減少しており、これもコントロールされた快適な乗り心地に貢献している。



市街地から、首都高速に入りさらに運転を続けてみればSPECTREのエフォートレスな楽しさは増す。コーナーごとにプラナー・システムが四輪駆動システムを作動させ、ステアリング、ブレーキ、前後のパワー配分、そしてサスペンションをコントロールし、車体を安定させる。

連続するコーナーをひとつ抜け、ふたつ抜けていくうちに、車両のベース価格が4,800万円という超高級車を運転している緊張感はやがて消え去り、気づけば無心で駆け抜けていた。

静粛性についても触れておかなければならないが、もちろん、言うまでもなく静か。どうしても音を立ててしまうエンジンがないのだから当然だ。さらに、ボディ底面に配置されているバッテリーには道路からのノイズを遮る効果もあるのだという。
 


車内での会話で声を大きくする必要など一切なく、かつ静粛性の高さは音楽のリスニング環境としても極上。電子音楽やロック、ジャズ、そしてポップスとさまざまな音楽を聴いてみても、繊細な音までクリアに聴き取れる上に、静粛な車内に漂う残響までも感じられるほどだった。

かつてロールス・ロイスといえば、後席にゆったりと身を委ね、運転はドライバーにまかせるショーファーカーのイメージが強かったかもしれない。もちろんSPECTREの後部座席だって充分快適ではある。
 
しかし、このSPECTREはその随所から、このクルマがドライバーズ・カーであることを主張する。自らステアリングを握り、自分の意思で道を選ぶことを好む人こそ、このクルマを存分に楽しむことができるだろう。それも、あくまでもエフォートレスに。

新しい時代のラグジュアリーは、旧来の価値観をただ受け入れるのではなく、自らが心地よくいられるものを選ぶ人々が作っていくものだ。そんな新時代の価値観に、このSPECTREはぴたりと調和するように感じた。



文=Tsuzumi Aoyama
提供記事=Forbes JAPAN

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