現実は複雑で面白い。だから俳句で詠む
編集部 岩田さんが俳句を始めてから10年ほど経ちましたが、ずっと続けられるのはなぜですか?
岩田さん 五・七・五の17音と短いから飽きないんですよね。例えば小説を書くのとは違って、俳句は自分が何か作りたいと思った時にすぐに作れる。今、倍速視聴やショート動画などが流行っていますけど、僕にとって俳句を作るのはそれと一緒です。
編集部 短いコンテンツというと、日本文学には短歌や川柳などもありますよね。
岩田さん なんていうか、人の感情にばかりそんなに関心を持っていられないと思うんですよ。短歌や川柳がそうだというわけではありませんが、今の世の中、人の感情を表現するコンテンツがあふれているじゃないですか。SNSとか小説とか。それを好きなのは素敵だと思いますが、自分はそんなにいっぱいはいらない。そういうハイカロリーなものよりも、川辺に転がっている石ころとか、なんでもないものが好き。感情のこもったものだけに価値が宿るわけじゃないと思うんです。
編集部 感情がこもってないものに関心がある、と。
岩田さん 正岡子規が随筆集『病牀六尺』の中で現実の魅力についてつづっていて、それがすごく好きなんです。芸術には理想と写生があって、理想つまり想像は意外とパターン化しやすいけど、写生つまり現実はよっぽど複雑にできているから全然飽きないと。
編集部 岩田さんが現実に惹かれるのはなぜでしょうか?
岩田さん 例えば、写真家や映像作家の方々に共感することは多いです。その人たちがカメラを構えたくなる風景やモノには感情が乗っているわけじゃない。だけど、巡り合わせで自分と偶然同居している。そこに良さがあるというか、そういう現実の中にある偶然性みたいなものに心惹かれてしまうんです。
だから僕が詠む俳句は、生活に即したものというより、そこにある現実ですね。句会に出すためにお題に沿って作ることも多いですし、誰かに何かを届けたいわけではない。あるのは、俳句を作りたいという思いだけですね。
編集部 作句で大切にしていることはありますか?
岩田さん 小さくまとまらないことと、きれいにしすぎないことですかね。予定調和にならず、めちゃくちゃな要素を孕んでいる一句になるよう意識しています。
岩田さんはパソコンとスマホで作句をしているそう
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