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俳句にルールなんてない。ビートとセオリーがあるだけ

編集部 これまでのお話から俳句の魅力はよくわかりました。しかし、五・七・五の17音の定型に季語を入れなければいけないというルールがあるし、やはりハードルの高さを感じてしまいます……。

岩田さん いや、そもそもルールなんてないんですよ。

編集部 えっ、 俳句にルールはないのですか?

岩田さん はい。俳句の定型にはルールはなく、ビートがあるだけです。そのビートに乗ると気持ちいいんですよ。もっと言うと、音楽の基本にはコード進行があるじゃないですか。何音かを同時に鳴らした時にきれいに聞こえる組み合わせがあって、そうでないものを不協和音と言いますよね。

聞き手に気持ちよく聞かせたいのなら、このコード進行を基本に構成した方がいい。俳句も同じ。基本的にはこの与えられたコード進行やビートに合わせて俳句を作った方が、詠み手も読み手も気持ちよく感じるんです。

あと季語にもルールなんかありません。あるのはセオリーです。俳句は短いので季語を設けることで、了解性を創出した方が便利であると。というのも季語には、読み手に伝わる感覚や風情が集約された「本意」が折りたたまれているんです。その折りたたまれた圧縮性の高い状態で俳句を届けたほうが、詠み手と読み手のどちらにとっても利便性がある。zipファイルで映像や画像をやり取りするのと一緒。季語や定型は拡張子の問題ともいえます。
 


編集部 気持ち良さや、了解性と利便性を高めるため、俳句には定型や季語があるのですね。

岩田さん そうするとうまくいくから、なんとなくみんなやっているだけで、必ずそうしないといけないという法律はないんです。もしみなさんが俳句にハードルを感じているならば、「俳句にルールはない」と声高に言いたいですね。

編集部 なるほど。季語は8,000種あるといわれていますが、それでも利便性はいいものですか?

岩田さん 極めて便利です。むしろ俳句をやっていない方こそ、季語が載った「歳時記」を持っておいて損はないと思います。「歳時記」を見れば、季節について詳しくなれる。だから、ごはんがおいしくなるし、贈り物選びも上手になれるんじゃないでしょうか。初夏になったからたけのこが食べられるなぁとか、夏だからハンカチを渡そうとか。

それくらいのメリットがあるし、何よりも日々の起伏が大きくなりますね。今日牡丹の花が咲いたとか、夏草が生い茂り始めたとか、そういう小さな変化に気づける季語の体系は、ウェルビーイングなものだとも思います。

編集部 たしかに季語を知っておくと、外の世界を見る目が変わるような気がしますね。とくに最近はインターネットなどの影響もあって、外からの刺激に鈍感になっていると感じるので、なおさら大切になるかもと思いました。

岩田さん そうですね。だからこそ季語のある俳句の必要性は、これからはもっと増していくんじゃないかと思っているんです。これまでのような情報や感情ではなくて、手応えのあるものや皮膚感覚がより大切になるのではないかと。


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