当記事は「FUTURE IS NOW」の提供記事です。元記事はこちら。 古くから日常的に親しんできた、和歌や短歌、俳句といった詩歌。とくに近年は、日本文学における詩歌を「よむ(読む・詠む)」ことが再燃しています。
どうして人は詩歌をよみたいと思うのでしょうか。そして今、詩歌が求められている理由とは? F.I.N.では、詩歌を「詠む」「読む」の両側面から紐解き、その魅力や新たな可能性を探求します。
今回は、日本の伝統的な詩の1つ「俳句」に着目。ひと昔前より格段に人気が広がっている一方で、五・七・五の17音に季語を入れてよむという原則があることに、ハードルの高さを感じてしまう人も少なくありません。時代とともに季節や言葉のあり方も変わる現代において、俳句はどんな役割を担い、どんな可能性を秘めているのでしょうか。
そして、表現方法がいくつもある中で、俳句ならではの魅力とは? 高校時代より俳句に親しみ、「俳句の芥川賞」といわれる角川俳句賞を史上最年少で受賞した俳人の岩田奎さんに伺います。
岩田奎さん(いわた・けい)俳人。1999年、京都市生まれ。俳句同人誌「群青」所属。2015年に開成高校俳句部にて作句を開始。2018年に第10回石田波郷新人賞、2019年に第6回俳人協会新鋭評論賞、2020年に第66回角川俳句賞を受賞する。2022年に刊行した句集『膚(はだえ)』(ふらんす堂)にて、第14回田中裕明賞、第47回俳人協会新人賞を受賞。
X:
@ii_tawake 意味性や自己表現にそんなに価値はない。俳句が持つ「意外性」
編集部 岩田さんは俳句のコンクール「俳句甲子園」の常連校・開成高校俳句部で作句をスタートされますが、なぜ俳句に興味を持ったのですか?
岩田さん 元々言葉が好きだったというのもありますが、俳句で戦えることに意外性を感じたんです。開成高校に入る前は、公立の中学校のサッカー部に所属していたんですけど、言葉で戦えるなんて思いもしなかった。俳句のイメージは、おとなしいものだったので。それに「俳句甲子園」では句を出すだけじゃなくて、ディベートも行われる。当時MCバトルが流行りはじめていたこともあって、俳句で戦う世界があるなんて面白いし新鮮だなぁと思ったんです。
編集部 実際に俳句に触れてみてどうでしたか?
岩田さん まず俳句には型があって、それを掴むまでにそれなりの時間や知識、カロリーがいるんだなと感じました。だけど、そこはヒップホップのビートやライム、フローと一緒で、ある程度型にはまった方が気持ちいいし、乗りこなせたら面白い。それもまた意外なところでした。
そして、意味のあることを詠もうとすると失敗する確率が高い。あれこれ欲張らずに、見たものをパッと仕留める方がいいというのも意外でしたね。とくに当時は思春期で、自分の内面を表現したいという気持ちも少なからずあったので。俳句において、意味性や自分の内面みたいなものにそんなに価値がないことを知ったのは、ちょっとカルチャーショックだったかもしれません。
編集部 俳句では自己表現はあまりしないものですか?
岩田さん 例えばほとんどの短歌は「私」があるものだと思いますが、俳句では「私」を捨てる場合が多いですね。
編集部 俳句部に入部してすぐ、そういう風に俳句への理解を深めたり、作句のコツを掴んだりできたのですか?
岩田さん 「俳句甲子園」に出場していた時は相手チームに勝たなければいけなかったので、そこまで自分を客観視できていなかったですね。俳句を広く捉えられるようになったのは、大学生や社会人になってから。いろいろな句会(*)や集まりに顔を出すうちに、人間はさまざまな世界に生きているし、一句だけを取り出して俳句を定義することは難しい。そんなことに気づきました。
*作った俳句を発表し、評価・批評し合う会のこと。 編集部 岩田さんは学生時代から、俳句がこの先の自分の核になると思っていたのでしょうか?
岩田さん そんなに思ってなかったです。高校と大学では俳句と同時に、演劇もやっていましたから。それでも俳句を続けているのは自分に割と向いているから。あと、逆張りもありますね。今どき俳句をやるのは、自分のキャラクターになるかなと。打算じゃないですけど、そういう気持ちは多少あります。
2/4