① この完成度は誰も真似できない!究極の元祖「銀座スイス」
「千葉さんのカツレツカレー」(2420円)。
銀座スイス本店の外観。
日本人なら誰もが思い浮かべる王道のカツカレーは、銀座の老舗洋食店で誕生しました。ここ「銀座スイス」から、全国の大衆食堂へと羽ばたいていったのです。
銀座スイスの創業は1947年。戦争で焼け野原になった銀座が復興を目指して再スタートを切った年です。
往年の銀座スイス。
実は戦後の1940~50年代におけるカレーは、大衆食ではありませんでした。カレー粉やルー、レトルトもない時代ですから、家庭で作ることはできなかったのです。
つまり当時のカレーは、ハイカラでモダン、肉と野菜の栄養をたっぷり摂れる「ちょっといい暮らしぶりの人が嗜む西洋料理」。
お店でも寸胴鍋で一気に煮込んだりせず、オーダーが入ってから火にかけていた“時間がかかる一品”でした。
当時、銀座スイスのほど近くに、「銀座テーラー」という読売巨人軍お抱えの仕立て屋がありました。選手たちはこの店でユニフォームを作り、その足で銀座スイスへ通って食事をしていたのです。
そんな常連のひとりがスター選手の千葉 茂さん。1948年8月14日、店にやってきてポークカツレツとカレーを頼んだといいます。
でもカレーをコトコト煮込むのを待ちきれなかったらしく、「カツレツも入れて一緒に煮込んでくれ! それなら早くできあがるだろう」と前代未聞のオーダーを繰り出します。
そう、元祖カツカレーは、カツ“煮込み”カレーだったのです。
日本初のカツカレーを綺麗に平らげて「美味しかったよ」と店を後にした千葉さんは、翌15日の阪神戦でホームランを打つ活躍ぶりをみせます。
そこで「試合に勝つ」にもかかって縁起がいいからと、カツレツカレーは銀座スイスの定番メニューに仲間入りしたわけです。
カツカレーがメニュー化する前の銀座スイス。「カレーライス」と「ポークカツレツ」は別に。
このとき、せっかくサクサクに揚げた衣がふやけてしまわないようにと、カレーの上にカツレツをのせるスタイルが確立されました。
現在も銀座スイスでは「千葉さんのカツレツカレー」と銘打ったひと皿を食べることができます。
さらにハイクラスな「千葉さんのカツレツカレー プレミアム」は、希少な茨城県産のブランド豚「常陸輝き」最上級ロース150gを揚げた贅沢極まりないカツレツに、別盛りのカレーをかけながらいただきます。また、カツの美味しさを岩塩のみでも味わいたい逸品です。
「千葉さんのカツレツカレー プレミアム」(3500円)。
これがもうめちゃくちゃ美味しいんですよ。さすが発祥の店、参りました!と唸るしかない。
まったく重たくないし、素晴らしくワインに合う。「カツカレーはドカ盛りのヘビーでジャンキーな料理」とどこかで偏見を抱いていた自分を深く反省しました。
一般的な日本のカレーと違って小麦粉をドサッと入れず、煮込みの最終段階で、カツレツの衣として使うパン粉をわずかに入れる。そうしてカツレツとの親和性を高めているわけですね。
元祖がそこまでやっていたとは……この完成度、未だに誰も超えられていないのではないかと敬服します。
こぼれ話ですが、「カツカレーの日」は2月22日と定められています。
「えっ、千葉選手が初めてオーダーした翌日にホームランを打ち、縁起の良いメニューとしてカツカレーが誕生したのは8月15日では?」と思われるでしょうが、その日はご存知のとおり終戦記念日。
「カツ=勝つの日」とするのはどうなのか……ということで、銀座スイスの創業日である2月22日になったそうです。
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