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スポーツの力で社会をより良くしたい



日置さんはチームのブランディングや経営、東京2020オリンピック・パラリンピックでは開閉会式の演出を統括するなど、巨視的な観点からスポーツに接しつつ、足元では選手の育成や強化、集客施策立案など、現在、複数のチーム経営にも深く関わっている。

その過程で見えてきたアスリートやスポーツの理想的なあり方についてこう語る。

「これは選手によく言うのですが、勝っていても、負けていても、手を抜かずに最後まで全力で戦い、ハードファイター・グットルーザー(果敢なる闘士、潔き敗者)になれるかが最も大事。

勝敗は相手があってのこと。だから努力してできることをやる。見ず知らずの子供たちがあなたのユニフォームを着て、あなたのプレーを全力で応援している、この貴重な時間の尊さを感じてほしい。

簡単なことではないですが、スポーツはこのように社会とつながることで初めて価値を見いだせると思います」。

スポーツの力は、まだまだこんなものではないと続ける。

「リオデジャネイロオリンピック(16年)では環境問題への取り組みがテーマのひとつになっていましたが、例えば次の東京オリンピックまでの4年間、服は廃プラスチックで作るとか、環境保全活動に取り組もうと言えばできたんです。

そうやって、スポーツを実行すべき社会問題とクロスさせることで、解決できることがたくさんあります。政治だと駆け引きが生じて難しいですが、スポーツならスマートに実現できる。

クリスティアーノ・ロナウドがフードロスについて発信すれば、その声は子供にまで届く。アスリートはそういう声をもっと上げるべきだと思いますし、もっとそういう環境をつくらなきゃいけないという思いは常にあります」。

今後スポーツビジネスを通して実現させたいことがあるという。

「今でこそ、公園でダンスをしたりランニングをしたりする人が増えましたが、日常生活の中で、もっと無意識的にスポーツがあるような、そういう環境をつくりたいと思っています。

スポーツには社会の課題を解決できるパワーがあります。そこには政治も宗教もないから、クリーンな状態で世の中を変えることができる。

日本に関していえば、プロ野球だと年間2500万人、Jリーグでは年間1000万人が観戦している。これを大きな力に変えていけばスポーツが発展するし、何より社会がより良くなっていくと信じています」。

東京・青山にあるオフィスは、目の前が神宮外苑のイチョウ並木という好立地。夏になるとごった返す眼下の混雑を尻目に、目の前に上がる花火が一望できるという。

「ベランダでBBQをしながらお酒を飲んで、もう最高です。よかったら今年いらしてください!」。社員はもちろん、社員の友達や、その友達まで訪れるという。日置さんは「大勢で集まるほうが楽しいですからね」と。

自身が大好きであると語っていた焚き火ではないが、スポーツへの熱い情熱はもちろん、人が自然に寄ってくる温かな人柄は、まさに焚き火のようだった。
日置貴之の10問10答

Q1. 年を取ったと感じる瞬間は?
朝5時半に目が覚めるとき。

Q2. 最も得意なスポーツは?
人と人がぶつかるスポーツ。

Q3. 苦手なスポーツは?
道具を手に持ってするスポーツ。

Q4. 現職でなければ何をしていた?
ミュージカルプロデューサー。

Q5. もしプロスポーツ選手になれるならどのスポーツ?
F1。

Q6. 壁にぶつかったらどう乗り越える?
旅行で一時的に仕事を忘れる。

Q7. 最後の晩餐に食べたいものは?
納豆ご飯。

Q8. 1日が3時間増えたら何がしたい?
クラシック音楽鑑賞。

Q9. 年を重ねることの魅力は?
知識が増えていくところ。

Q10. 生きている間に成し遂げたい夢は?
タンザニアに住みたい。
日置貴之●1974年生まれ。大学卒業後、博報堂を経てFIFAマーケティングに入社し、W杯のマーケティングに従事。その後、NFLやNBAなどの海外スポーツにおけるビジネスパートナーとして活動をする。2004年より北海道日本ハムファイターズのブランディングを担当。東京2020オリンピック・パラリンピックでは、開閉会式のエグゼクティブプロデューサーを務めた。


田邊 剛=写真 オオサワ系=文

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