登場人物を自分に投影、没入しながら気付きを得られる
紀里谷和明『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた』(文響社)はコロナ禍の2020年8月に発売された。
本のあらすじ
とある街の路地裏に、「出会えれば誰もがしあわせになれる」と噂される不思議な劇場が存在する。成功したい営業マン、有名になって愛されたいフリーター、やりたいことがわからない会社員、自分に自信が持てないフリーランス、結果が出せずに焦っている女優など、悩みを抱えた男女が一人ずつ訪れ、劇場の支配人との対話を通じてそれぞれが自身と根本的に向き合っていく物語。対話形式で進められていく自己啓発小説。
「物語には、“出会えれば誰もがしあわせになれる”謎の劇場の支配人が出てくるのですが、実は紀里谷さん自身が支配人であり、同時に相談者でもあるのです。
それってどういうこと? と思われるかもしれませんが、読んでいただければ『なるほど』と納得できるはず。世界で活躍される紀里谷さん自身の苦しかったことや自身と向き合った経験、実話を基に創作した本なのです。
支配人は物語のガイド的な役割で、章によって主人公(相談者)が変わり、悩みのテーマもそれぞれ。成功したい人ややりたいことがわからない人、仕事がうまくいかない人などが支配人と対話をして気付きを得ていく……という内容ですが、誰もが考えたことがあるだろう悩みにリンクするので、読み進めるごとに主人公の悩みが自分のことのように思えるのです」。
物語は基本的に支配人と各章の主人公との対話形式で進んでいくため、まるで目の前で会話が繰り広げられているような没入感も得られる。
紀里谷和明『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた』(文響社)より
読書家さんがこの本をInstagramで投稿したところ、フォロワーからも反響があったという。
「ある章で、主人公のひとりが小さい頃の自身と対峙する印象的なシーンがあるのですが、ここで涙したというコメントをいただきました。
そこでは『悩みというのはたいてい“大人の心”と“子供の心”の意見の食い違いからくる』ということが書かれていますが、相談者が“子供の心”に目を向けてみると、幼少期のトラウマや傷があるのです。
読み進めていると、まるで自分が支配人からコーチングを受けているような気になります。心の中でモヤモヤしたことや、悩んでいたことが思い返され、主人公にとっての気付きが、そのまま自分の気付きにもなるのです。これがこの本の魅力ですね」。
3/4