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人と人とを繋ぐゲストハウスをオープン

7月に行われる飯田町燈籠山祭り。(写真提供=北澤晋太郎)

7月に行われる飯田町燈籠山祭り。(写真提供=北澤晋太郎)


田舎への移住で最も重要なのが地元民との人間関係だ。新谷さんたちは移住した際に区長へ挨拶をし、地域の活動や祭りにも積極的に参加することで土地に溶け込んでいった。

「珠洲にコミュニティスペースを作りたいと考えていたので、飯田町の海の目の前にある一軒家を購入し、『ゲストハウス仮( )-karikakko-』を始めました。そこも今回の地震と津波でやられてしまったんですけどね。

かりかっこの台所。地震と津波両方の被害にあった。

ゲストハウスの台所。地震と津波両方の被害にあった。


他にも寿司店の跡地を借りて大好きなラーメンを提供したり、芸術祭の裏方として働いたり、デザインの仕事を手伝ったり、日々目の前のことに応答することが仕事というか。珠洲にはやりたいことがあるから“いる”というより、自然と“住んでいる”って感じですね」。

一貫性のないキャリアにも思えるが、田舎での暮らしはマルチワークが基本である。珠洲の地元民も、漁業に農業、観光業と時期によって仕事も移り変わる。形は変われど、プレーヤーとしての生活が営まれている。
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「アート活動もしていますが、作品を作るというよりは日々の暮らしの中にアートを見出しています」。

2023年に開催された「のと鉄道アートステーション」ではアーティストユニットとして参加。(写真提供=北澤晋太郎)

2023年に開催された「のと鉄道アートステーション」ではアーティストユニットとして参加。(写真提供=北澤晋太郎)

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移住者仲間がきっかけで「あみだ湯」継承へ

珠洲市飯田町の大町通り商店街にあるガクソーは学びの場であり遊びの場でり、なんでもありのたまり場でもあった。

珠洲市飯田町の商店街にあるガクソーは学びの場であり遊びの場でもあった。(写真提供=北澤晋太郎)


新谷さんの珠洲移住に続くように、同年代の若者がこの地に住み着くようになった。移住者仲間で立ち上げたプラットフォームが中田文化額装店、通称・ガクソーである。

ガクソーはNPO法人として子供たちへの教育支援をはじめ、地域の人が交わるサードプレイス、表現活動などを行う文化拠点である。

そんなガクソーの理事長である北澤晋太郎さんとの出会いによって、新谷さんの活動もより広く、深度を増していった。

「あみだ湯」事業継承のきっかけを作った北澤晋太郎さん(右)。彼も2017年に新宿区から珠洲市へ転居し、珠洲で小さなデザイン会社を立ち上げた移住者のひとり。(写真提供=鍵主哲)

「海浜あみだ湯」事業継承のきっかけを作った北澤晋太郎さん(右)。彼も2017年に新宿区から珠洲市へ転居し、珠洲で小さなデザイン会社を立ち上げた移住者のひとり。(写真提供=鍵主哲)


新谷さんと北澤さんは同年代でほぼ同時期に移住したこともあり、はじめは遊び仲間のひとりだった。
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「ザワ(北澤さん)は2018年頃から家庭教師のような感じで高校生に勉強を教えていたのですが、ある日、親御さんから、『珠洲で過ごすだけでは出会えない大人がいる。いろんな価値観や生き方を教えてくれるとうれしい』と言われたらしいんです。

それがきっかけで、ザワ自らが理事長を務めるNPO法人を立ち上げました。僕はそこで、アートプログラムの寺子屋美術部を担当することになりました」。

(写真提供=北澤晋太郎)

(写真提供=北澤晋太郎)


老若男女、珠洲の人たちと交流を図る中、地元の銭湯「海浜あみだ湯」からは「お父さんがもう膝が悪くてねぇ、誰か手伝ってくれないかしら」と雑談まじりで相談されていたという。

「最初は『手伝うくらいならいいかな』と軽い気持ちで引き受けたんです。ボイラーの操作法をマスターしたり、薪を割ったり、常連客と馴染んだり。でも、だんだんお父さん(あみだ湯の店主)の調子が悪くなってきて、2023年からは実質的に僕たちが運営を担ってきました」。

珠洲市にある海の見える銭湯「海浜あみだ湯」。

珠洲市にある、海の見える銭湯「海浜あみだ湯」。


ボイラー作業を担う新谷さんを中心に、北澤さんらガクソー仲間が有志であみだ湯を運営し、2024年には事業の継承も予定していたようだ。大地震が発生したのは、そんな矢先のことだった。
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