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「楽しく使う」には賢さが求められる

一方で「楽しく使う」ためには賢さが求められます。収入の範囲で、財産三分法のバランスをとりながら、自分が納得できるお金の使い方を「考え」なければならないからです。

そもそも、バブルや高度成長期の「いい時代」は基準になりません。戦後からバブル崩壊までのおよそ50年が、異常だったのです。冷静に考えて、経済成長率が7〜8%を超える時代が、長く続くはずがないでしょう。いま、日本はようやく普通の国になったといえます。それなのに、「昔はよかった」というおなじみのフレーズでみなさんを惑わせる困った人たちがいる。その困った人たちこそ、かつてのバブル期を20代から30代のときに経験した世代です。

いまの日本は、この世代の人たちが牛耳っている国です。ですから、古き良き昭和の文化を引きずっている慣習が、たくさんある。あとで詳しくお話ししていきますが、「保険」「貯蓄」「マイホーム」「結婚式」「専業主婦」「定年退職」といった過去の常識が、いかにも「当たり前の伝統」のような顔をしてみなさんを縛っているのです。

人間は、「いいときの自分」を基準にしてしまいがちな生き物です。スポーツでもそうですが、一度いい成績を残すと、それを自分の実力だと思ってしまう。バブルを知っているタクシーの運転手さんも、いまだに「昔は午前4時にならないと、タクシーなんてつかまらなかったんですけどねえ。いまは不景気で困っちゃうよ」などとぼやいています。

当時の「常識」がどんなものだったか想像がつきますか? 企業の交際費は自由に使え、自分の懐は痛まない。企業同士の会食では、値段なんて誰も気にしない。1人1万円だろうと1万5000円だろうと、ぼったくられていようと、領収書さえもらえれば怖いものなし。財産三分法でいう「財布」が、いまの何倍も大きかったのです。

それに、なんといっても、日経平均株価が3万円台後半だった時代です。世の中にはお金が潤沢に回り、政府にも企業にも、そして個人にもお金があり余っていました。

物心ついたときには既にバブルが崩壊していたみなさんと、バブルを経験した人たちでは、もはやまったく別の時代の、それどころか別の国を生きていると言ってもいいでしょう。いわば、価値観が分断されている。

つまり、不変の国民性なんてものはなくて、人はあくまで社会の状況を反映し、それに適応した行動をとっているだけなんです。いまの景気のなかでお金を楽しく使えることが、「賢さのバロメーター」です。

僕も、本書をとおして、できるだけいまの時代にあった「お金の基準」をお伝えしていきたいと思います。


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