コラム連載「日常に潜む社会の闇」●デンジャラスな現場で20年以上取材を重ねてきたルポライター・村田らむ。社会の闇を誰より知る男が、誰しも陥りかねない身近な危険に警鐘を鳴らす!
20年以上にわたり、身を挺して社会の闇を暴いてきたルポライターの村田らむさん。彼が潜入取材を通して目にしてきた、日常に潜む危険を教えてもらう。
▶︎すべての写真を見る 案内人はこの方! 村田らむ●1972年生まれ。ライター、イラストレーター、漫画家。ホームレスやゴミ屋敷、新興宗教組織、富士の樹海など、アンダーグラウンドな場所への潜入取材を得意としている。キャリアは20年超え、著書も多数。自身のYouTubeチャンネル「リアル現場主義!!」でも潜入取材や社会のリアルを紹介している。
被害総額が増えている特殊詐欺
オレオレ詐欺、還付金詐欺、ギャンブル詐欺、交際あっせん詐欺など、被害者をだまして現金を振り込ませる詐欺を“特殊詐欺”と言う。
90年代末から始まり、現在も盛んに行われている。詐欺の認知は進んでいるはずだが、2004年の被害総額が283億7866万円、2022年の被害総額が370億円8135万円と、むしろ被害額は増えている。
詐欺グループが犯罪をする場合に欠かせないのが、銀行口座。どんな手口で詐欺をするにしても、現金を振り込ませる口座が必要だ。
その通帳は詐欺が露見した時点で凍結されるため、自分の物は使えない。あれやこれやの手口を使って、他人の口座を手に入れなければならない。
僕はもう20年以上ホームレスの取材をしている。取材しはじめの頃は、上野公園には数百人単位のホームレスがテントを張って生活していた。ホームレスを利用して金にしようという輩があとを絶たなかった。いわゆる貧困ビジネスだ。
「狭い部屋に住まわせて生活保護を受給させ、生活保護の大半を家賃として払わせる」のが最も多く、現在も盛んに行われている。この場合本当にホームレスが部屋に住んでいたら犯罪ではない。
ただ、ホームレスに犯罪行為やグレーな行為をさせて稼ぐ搾取も多かった。
僕がホームレスの取材を始めた2000年頃は、まさに特殊詐欺が始まった時期だった。ホームレスに銀行口座を作らせて買い取るというのが非常に流行っていた。
ボランティアなどが、「通帳を作らないように。名前や住所を貸さないように!!」と口が酸っぱくなるほど繰り返していたが、それでも通帳を作って売る人はあとを絶たなかった。
ホームレスに話を聞くと、「福祉の人は、『名前や住所(元住んでいた)を売るのは絶対にダメ。最終手段です』とか言うんだけど、俺に言わせたら最初の手段よ。みんなさっさと売っちゃう。こんな生活してて、今さら捨てられないモノなんてないもの」などと諦めたような笑顔で言う人が多かった。
ホームレス生活をしている人の中には、知的障害を持っている人も少なくない。つまり本人の自覚はない場合も多く、判断が及ばず、言われるまま通帳を作ってしまったというケースも多かった。
ホームレスを雇って、出し子にするケースも多い。出し子というのはATMなどで、現金を引き出す役だ。
知り合った若いホームレスは、銀行に行って、中国の窃盗団が盗んだ通帳を使って300〜400万円を引き出したと自慢していた。そのときに犯罪者組織からもらったギャラは20万円と言っていた。リスクの割にあまりに安いギャラだし、あとから逮捕される可能性も非常に高い。
ホームレスは2000年代初頭と比べ随分減った。10分の1以下になっている。生活保護が受けやすくなり、生活保護アパートに住みやすくなったのだ。それと同時に上野公園など都心部に住むことは禁止された。河川敷や駅前にいけばまだホームレスはいるが、昔のようにどこにでもいるという感じではなくなった。
生活保護マンションに入っている以上、ほうっておいても毎月お金が振り込まれる。ギャンブル中毒や風俗中毒の場合、どうしてもお金が必要になるケースもあるが、地味に生活していくだけならわざわざ銀行口座を売るなんてリスクの高い行動はしなくて良い。
現在の西成の風景。
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