土地に根を張ることでカルチャーは育まれる
東京からの移住者ながら根を下ろし、再来年で30周年。近年は店の前の駐車場でポップアップを催し、ローカルとビジターが交流する賑わいを創出するなど、独自の存在感を醸し出すようになっている。
とはいえ、エゴは出しすぎないように。葉山という土地に最大限の敬意を込めて。それは奄美大島で学んだことだった。
「縁があって奄美大島でショップと宿を営んでいるのですが、島のコミュニティは葉山に比べて小さく、地元の人に『葉山でお店を経営しています』と自己紹介しても、そんな肩書より『本当のあなたはどのような人?』という視線を向けられるんです。素をしっかり見せないと信頼してくれないんですね。
似たような思いを抱いたことは葉山でもありました。今の場所への移転当時は『この人たちは何者だろう?』と警戒されましたから。
自分たちが快適に生活している場のリズムや空気を汚すような不純物は欲しくない。そのような高い意識は、葉山のような美しい場所にはありますよね」。
長く暮らす地元の人に「異物ではありません」と理解をしてもらうためには時間が必要となる。そして30年近い時間が流れていくと、葉山ローカルの両親を持つ娘さんがスタッフになった、ということが起きる。
「そういうミックスが生まれて、ようやく根が生えるというか。土からきちんと耕して、種を蒔き、根が張ることで木になり花が咲く。本来なら、それが良い形のように思いますね。
カルチャーの語源はカルティベイトで、意味は“耕す”です。ちゃんと土から向き合わないと、文化にはなりませんよね」。
大きな木を植林しても根付かないときがある。資本力を背景にオーシャンビューの建物をポンっと建てたり、大きなイベントを行うだけでは土地の文化にはなりがたい。
そうした思考の元にあるのは、80年代前後にカリフォルニアで生まれたガレージブランドだった。
「88年に日本支社ができたパタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードは登山家で、クライミング用品を作り出したことがルーツですし、サーフボードのシェイパーだったショーン・ステューシーはTシャツを自作したことがキャリアの起点。
当時、こうしたブランドが多く紹介され、どれも魅力的に映ったのですが、その理由は作り手それぞれが愛するカルチャーに敬意を払いつつ、自分たちが良いと思うものを小さく始め、徐々に育てていった姿勢にあったのだと思います」。
SUNSHINE+CLOUDの根幹は当時のガレージブランドの世界観を大いに参考にして築かれた。そして30年ほどの時間を経て成長し、土地に受け入れられ、コミュニティへ昇華しようとしている。
店も一色海岸の目と鼻の先。オープンなロケーションにあることから「もう逃げも隠れもできない」という覚悟がある。
その先を想像すると、一軒の店の誕生をきっかけに魅力を増した、サンフランシスコの海辺の町を思い出した。
SUNSHINE+CLOUDも、その一軒になりうるのでは?そう問うと「そこまでは意識していませんが、うちがあることで、葉山でお店をやりたいと思う人が出てくるといいですね」と、地域性を理解しつつ、町の魅力を高めたいとする人の登場に期待感を示した。
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