渡辺真史●1971年、東京都生まれ。ベドウィン & ザ ハートブレイカーズのディレクター。ローカルとインターナショナル、2つの視点で東京をクルージング。
▶︎すべての写真を見る 渋谷駅と原宿駅のちょうど中間あたり。多くの人で賑わうトランクホテルのラウンジで、総支配人の古賀久夫さんが出迎えてくれた。
渡辺 古賀ちゃん、今日はありがとう。いや、今日“も”だね。
古賀 いつもありがとうございます。
渡辺 イベントや打ち合わせ、食事と、泊まったことはないけれど、日頃から本当にお世話になっています。
古賀 そうやって仕事や遊びの拠点として使ってもらえて、コミュニティが広がっていく。それもホテルの役割、面白さだと思うんです。
渡辺 ここが2017年に完成してから、渋谷や原宿の若い子たちの中でそれまで東京になかった「ホテル遊び」という概念を発展させていると思う。チャペルを併設するホテルは珍しくないけど、そこでコンサートが開かれたり、ポップアップスペースでは毎週のようにアートやファッションの展示が行われる。ラウンジではコーヒーや酒を楽しむ人の傍ら、学生たちがPCと睨めっこ。トラフィックの多様性に驚かされる。
古賀 僕らのコンセプトは「ソーシャライジング」。社会性・社交性を基にした造語で、多くの意味が込められています。まさに多様性もそうですし、環境や健康、地域や文化を大切にする姿勢も含まれています。
渡辺 エントランス横のストアではアメニティのほか、障がい者雇用を促す「ショコラボ」のチョコレートが置かれている。利用するだけで自然と社会に貢献できる仕掛けが、スマートにちりばめられている。
古賀 結婚式などで使用した装飾の花をブーケにアップサイクルする、フラワーマーケットも好評です。ほかにも、例えばバーで提供するフルーツカクテルは、無駄がなるべく出ないよう皮まで丸ごと使っています。
渡辺 それは知らなかった! スタッフのアタマの柔らかさを感じるね。
古賀 ソーシャライジングの根底には、「無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活する」という想いがあります。これ見よがしでは息苦しいですし、こういうラグジュアリーの形があってもいいはず。
渡辺 実はこのホテルができる前に、ノジくん(トランク代表・野尻佳孝さん)の話を聞く機会があって。ここはもともと公園という立地もあってか、行政サイドとしっかり話し合いを重ねている様子でした。場所柄、カルチャーやファッションの視点を大事にしながらも、公共を重んじる。さまざまな立場に立って話している彼の姿を見て、ここは新しい渋谷区のランドマークに相応しいなと、感動したのを覚えている。
トランクには木の幹という意味も。このホテルを中心に広がる多彩な輪に、さらなる期待を抱く。