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2023.11.14

ライフ

「たじみDMO」COO 小口英二さんが目指す、住む人が楽しめるまちづくり



当記事は「FUTURE IS NOW」の提供記事です。元記事はこちら

「うちの地元でこんなおもしろいことやり始めたんだ」「最近、地元で頑張っている人がいる」――。そう地元の人が誇らしく思うような、地元に根付きながら地元のために活動を行っている47都道府県のキーパーソンにお話を伺うこの連載。

今回ご登場いただくのは、岐阜県多治見市のまちづくりを行う〈たじみDMO〉で COOを務める小口英二さん。美濃焼やタイルなどの工芸品で知られる多治見市で、まちづくりをしています。2019年、商店街にあった老舗のビル一棟をリニューアルして、書店や喫茶店が入った〈ヒラクビル〉をオープン。商店街に活気が出たと、地元の人からも喜ばれています。

〈ヒラクビル〉に続くように多治見の街には新しいお店もいくつかできていて、この地域を楽しくしたいと活動する人が増えているそうです。小口さんはどのようにまちづくりに関わるようになり、どんな思いで多治見市を拠点に仕事をしているのか伺いました。
小口英二さん(おぐち・えいじ)
長野県岡谷市生まれ。大学進学のために石川県金沢市へ移住後、まちづくりを行う会社〈金沢商業活性化センター〉に入社。その後、市町村の行政計画を策定する会社でコンサルタント業務に就く。2009年から岐阜県多治見市に拠点を移し、〈多治見まちづくり株式会社〉(現たじみDMO)に入社。2010年多治見のやきものを使った〈カフェ温土〉をオープン。2020年にCOOへ就任。2019年に〈ながせ商店街〉内のビルをリノベーションし、〈ヒラクビル〉をオープンさせた。

金沢ではじめて経験したまちづくりの仕事

岐阜県多治見市のまちづくりに、2009年から携わる〈たじみDMO〉COOの小口英二さん。まちづくりに関わり始めたきっかけは、大学進学のために移住した石川県金沢市での出会いでした。

「大学進学のために金沢に住んでいました。勉強よりもバイトを頑張っているような不真面目な学生で、ホテルのバーや、飲食店などで働いていました。あまりにもバイトに力を入れすぎて、ある時飲食店のオーナーから『小さな店を開くから、そこをやってみてはどうか』と言われたんです。同年代のバイトの同僚と2人で店を任せてもらえることになりました。

小さな店だったので、売り上げや集客を上げるために悪戦苦闘。街に出てビラ配りもしました。店に人が来ないわけではなくて、街に人がいないということをその時にはじめて知ったんです。この状況をどうにかしたいと思うきっかけになる出来事でした」

飲食店の運営に奮闘し、一生懸命働く日々。そんなある日、小口さんの運命を変える出会いがありました。

「金沢の商店街の皆さんが、イベントの打ち上げで私の店に来てくれたことがありました。その時、旧知の先輩と偶然再会。その人がまちづくりの仕事をしていたんです。『バイトをしているんだったら、うちの会社で働かないか』と声をかけていただきました」

尊敬するメンターに出会い、まちづくりの業界へと飛び込みました。

「大学の最後の年で就職も決まったので、大学を辞めて会社に通うように。最初は、声をかけてくれた先輩の仕事についてまわっていました。仕事の内容は、まちづくりのためにいろんなお店や社長のところに行ってお金を集めるなどの調整業務。先輩が地元の錚々たる社長さんたちと渡り合っている姿がとてもかっこよく見えて、この人みたいになりたいという思いが大きくなっていきました。そしてこの仕事の楽しさにハマっていったんです」

金沢でまちづくりの面白さを知った小口さん。4年ほどの月日をその会社で過ごします。

「自分なりに、地域内に人脈ができてきたことが嬉しかったです。しかしどんな仕事でもうまくいく時も、いかない時もあります。一度仕事が上手くいかなかったタイミングがあり、金沢の会社を辞めました。その後、それでもやっぱり地域に関わる仕事がしたいと思い、都市の計画づくりをするコンサルタントの会社に就職。全国をまわりながら、さまざまな自治体の計画づくりをしていました」

多治見の街に感じた頑張る人を応援する空気

コンサルタントの仕事はやりがいがありましたが、もっと地域の現場に携わりたいという思いが強くなりました。そんな時、多治見でまちづくりの仕事があるという情報を手に入れたんです。

「当時30歳だった私は、子どもが生まれたばかりだったので移住について妻に相談しました。『やりたい仕事をやってほしい』と背中を押してもらい、一度下見がてら、多治見を訪れました。現地の人とも会うなかで『ぜひあなたにやってほしい』と声をかけていただき、多治見の会社に入社することになりました」

その時まで小口さんは多治見に行ったこともなく、地名を知っている程度でした。最初は不安も大きかったそうです。

「実際に足を運んでみて、驚いたのは金沢との人口の違い。果たして仕事を依頼してくれるクライアントが見つかるのだろうかという不安は少しありました」

しかし、一方で移住の背中を押してくれるような街の雰囲気もあったと言います。

「会社の社長が私のことをとても気にかけてくれて、いろんなところに連れて行ってくれました。また地域の方々もすごく関心を持って声をかけてくれたので、すぐにここに馴染むことができました」

多治見市には、「地域を良くしよう。その為に頑張ってくれる人を応援しよう」という空気があると語る小口さん。その理由は一体なんでしょうか。

「多治見市では〈たじみビジネスプランコンテスト〉という街の活性化のためのビジネスプランを定期的に募集しています。最初にグランプリをとった方がすごく街に貢献してくれていて、また次のグランプリをとった方を育てる動きがあり、そのような成功体験に支援側も勇気づけられています。だから多治見のために何かをしたいと思う人の夢を叶えてあげよう、創業まで一緒に頑張ろうという空気が流れているのではないでしょうか。地域の活性に繋がることであれば、労を惜しまない人がたくさんいるんだという印象がありました」

活動していくなかで感じた商店街の変化

移住後、小口さんが早速取り組んだのは街の人たちとコミュニケーションを取ること。地域の皆さんに集まっていただいて、膝を突き合わせて街の課題や、やりたいことを話し合う機会を設けました。

「コミュニケーションを取るなかで、ここはやきものの街なのだから、やきものに関連するカフェを作ろうというプロジェクト案が出てきました。実は商店街の皆さんがずっとやりたいと思っていた夢だったそうです。しかし自分のお店をやりながらでは、なかなかできない。それを聞いた時に、私は実家も飲食店ですし、金沢でも飲食店をやっていた経験もあり、得意な分野だと思って取り組むことを決めました」

2010年の7月に〈カフェ温土〉をオープン。旬の野菜をたっぷりと使い、多治見の器で提供します。

「お店に来てくれるお客さまに、サービスを通して多治見の良さを発信することで喜んでいただけています。そして同時に街の皆さんにも『まちづくり会社ってこういうことができるんだ』という実例を見せたかった。空き店舗を店に変えて、人がそこに集まるようになる具体例を示すことができました。それによって行政や街の人たちから、私たちの仕事を理解していただいたという手応えがありました」




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