強さも含めて「格好いい」
――猪木さんのプロレス観やスタイルから棚橋さんが学んだことは?
猪木さんはすごくファッショナブルだったんです。プロ野球選手やサッカー選手は、移動のときにドレスコードがあったりしますけど、それまでプロレスラーはタンクトップにトレーニングウェアみたいなイメージでした。けれど猪木さんは、移動のときはスーツでカチッと決めて、もともと手足が長くてスタイルもいいから格好よかった。
だから僕も、新幹線や飛行機に乗るときはジャケットを着用することも多く、プロアスリートとしていつ見られてもいいようにしています。「いつ何時、誰に見られても格好いい」っていうね。
日頃からおしゃれなことでも知られる棚橋弘至選手(撮影:今井康一)
――リングの上だけでなく、日ごろから格好よくあり続けてこそプロだと。
猪木さんに憧れてプロレスラーを目指す人がたくさんいたのは、強さも含めて格好いいからなんです。だからプロレスも大きくなってきたわけで。同じように僕が格好よければ、「棚橋みたいになりたい!」っていう人が増えて、プロレスというジャンルがこれからも続いていくんじゃないかな。
今、新日本プロレスに入門してきている選手たちは、猪木さんを(リアルタイムで)見ていなくて、「棚橋を見てプロレスを好きになった」っていう選手も結構多くて。順繰りなんですね。
――プロレスファンの間で有名な通称「猪木問答」(※2)で、棚橋さんは猪木さんに感情をむき出しにしましたが、どのような気持ちだったのですか? (※2:2002年2月、大会終了後に猪木氏がリングに上がり、棚橋さんら選手たちに「怒ってるか?」と問いかけた一連のやり取り。棚橋さんは質問に答えず、「俺は新日本のリングでプロレスをやります」と宣言した)
先に答えた中西(学)さんや永田(裕志)さん、(鈴木)健想さんが、猪木さんから「お前はそれでいいや」「見つけろ、テメエで」など返されて玉砕して、これは言い負かされるなと。それで質問に答えずに、「俺は新日本のリングでプロレスをやります」と言ったんです。
ただ本当のところは、「あなたに怒っています」が僕の本音だった。猪木さんは道場や会場にときどき来て、文句だけ言って、プロレスと格闘技をごちゃまぜにした試合をやれと言って。それが新日本プロレスのよくない流れの始まりだと思っていましたが、キャリア2~3年目の若手がそんなこと言ったら、業界から抹殺されるなと(笑)。
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