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「こんなに人に褒められるのは、人を駄目にする」と言う栗山氏(写真:矢口亨)

「こんなに人に褒められるのは、人を駄目にする」と言う栗山氏(写真:矢口亨)


「まずは僕がもっと成長できる場を踏まないと、誰かのためになれないなと思っています。WBCで世界一になりましたけど、世界一の監督になったわけじゃなくて、世界一になったチームのときに、たまたま監督をやっていた人なので。

人が成長する状況というのは艱難辛苦(かんなんしんく、困難で辛い事の意)なので、野球は長くやっちゃったからまったく違う世界で勝負したほうが、ドロドロになって、裸になって、がむしゃらに自分の良さが出るかなって、そんなことも思ったりする。

例えば小説を書いてみたいとか、いろいろあるんですよ。違うものにドロドロになる。今、ちょっと面白くないんです。みんなに褒められちゃうので。こんなに人に褒められるのは、人を駄目にする。早く野球と違うことを始めないと良くないですね」

野球の未来について思うこと

栗山氏の言葉からは、自己の成長に対しても長期的な視点を持ち続けていることが読み取れる。新たな挑戦への意欲を示す一方で、自身の経験と膨大な知識を背景に、野球の未来について深い思索を続けている。

「ほかのスポーツも素晴らしいんですけど、野球の持っている良さを、もっともっと広げるためには、どうしたらいいか考えている。野球の環境があまりにも難しくなっていますね。お金もかかるし、場所も必要だし、子どもの数も減っているし。

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僕は僕なりに、野球というものがいい形で残っていく形をつくらなきゃいけない。そのためにはお金も必要だし、正しいお金を稼がなければ、それができない。そういうことが、野球のほうの夢だったりするところもある。タイミングを見ながら前に進みたいなと思っています」

「正しいお金を稼ぐ」という栗山氏の言葉には、渋沢栄一の著書『論語と算盤』に通じる価値観を読み取ることができる。

それは、利益追求と道徳的義務がバランス良く組み合わさった状態を示しており、具体的には製品やサービスを提供することで利益を得るとき、それが社会や消費者にとって真に有益であり、公正な方法で行われていることが重要になる。そしてそれは、野球が長く愛されるスポーツであり続けるために必要なことだと栗山氏は考えている。

野球がビジネスとして持続していくこと、社会的価値を保ち続けることを両立させるために、現時点で改善すべき環境を栗山氏は2つ提示した。

「都道府県全部に野球のプロのチームがあったりしたらいいと思います。自分の住んでいる地域にプロ野球があるというのは身近じゃないですか。ファームでもいいから、都道府県全部に野球チームって置けないのかなとか。

子どもの時は近くにあるものに(興味が)引っ張られるので、『あのお兄ちゃん、かっこいいな』というところに入る。そういう環境をつくっておきたいと思ったり、あとは女子野球の発展も考えている」

栗山氏は先日、日本プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)の設立を牽引した川淵三郎氏に直接会いに行った。そこでBリーグが地域密着とアリーナ運営の戦略により、スポーツエンターテインメントとして人気を確立するまでの経緯を聞いた。

「これから勉強していかなきゃいけないところもあるし、やることがいっぱいあります。でも、僕は苦しいものが楽しいんです」

これからについて話す栗山氏はとてもうれしそうだ。今まで以上にペンを執る頻度も、ノートに書かれる言葉の彩りも増していくに違いない。



矢口 亨=写真・文
記事提供=東洋経済

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