長期的なビジョンと即座の行動が重要
「物事の枝葉にとらわれないようにするのが大事。今何か起こってしまうと、人間ってそこに引っ張られがちじゃないですか。でも本当にやりたいことの本線であるところは、もっと違うところにある。
だいたい困ると人間って短期的にものを考えるので、つねに長期的に考えるようにする。選手は多分、今しか見えてない。(プロ野球の監督をやる場合)僕らは3年から5年先のイメージを、選手に対して持っている」
「明日のことは考えない」(栗山氏)その真因は?(写真:矢口亨)
ここで栗山氏が重要視するのは、選手が困難な状況に直面したとき、短期的な視点で物事を考えてしまいがちな人の傾向に注意を喚起することだ。栗山氏が指摘する「本線」は、長期的な視点に立ったときに見えてくる本質的な目標や課題を指す。
しかし、これは「“今”だけを見て行動する」ことを否定しているわけではない。むしろその矛盾する2つの視点――長期的なビジョンと即座の行動――が選手たちにとっても重要だという。
「でも、僕がつねに思っているのは、明日のことは考えないということ。明日からはどうでもいいけど、今日だけはできることをやり尽くそう。明日からはできなくてもいい。今日だけは絶対やる。また明日になったら、今日だけは絶対にやる。先の事も大事だけど、今できることを全力でやっていますか、できたんですかという問いを持ったほうがいい。
ご褒美は、いつか、どこかで来ます。そんなことよりも、『今日、俺やれた』と思うほうがうれしいじゃないですか。明日のこととか(未来の目標を)考えたほうが物事の考え方としてはいいんだけど、今日やって自分を褒めてあげたほうが結果は出やすいと思います。
結局、引退の時にもっとあの時にこうしておけばよかったって選手たちは思うんですよ。本当に明日引退、クビになると思ってないんで。思ってたら、やることが違ってくる。引退のシーズンに答えが出ているわけじゃなくて、もっと早い時に、選手たちは(結果を)求められているんですよ。そこを逃しちゃうと、先が苦しくなっちゃう。だから、今日やらなきゃ駄目なんだ、悔いを残すなと思います」
この意識の在り方は、一見すると「長期的な視野を持つこと」のアドバイスと対立するかのように思えるかもしれない。しかし、長期的な目標を持つことは、それを達成するためには何をすべきか、どんな行動が必要かを明らかにする。
そしてその行動は、今この瞬間に起こすべきものであり、「今日だけは絶対にやる」という栗山氏の言葉につながる。続いて栗山氏が引き合いに出したのは、投打の二刀流で大リーグを席巻している大谷翔平選手だった。
「翔平は『今じゃないんです』って、トレーニングしていてもずっと言っていました。将来こういう動きができないと、自分のやりたい野球ができないから、今、疲れていても、筋肉痛になろうとも、このトレーニングをしなきゃいけないって、彼はやっていました。
あの若さで『今じゃない』って言える選手、すげえなと思って見ていました。目標設定から逆算して今日やるべきことが分かれば、その積み重ねですよね」
大谷選手が花巻東高校1年生の時に作成した「目標達成シート」は、彼の成功への道筋を示す貴重なエピソードとなっている。このシートは、中央に一つの大きな目標を設定し、その周りに9×9のマスを配して、合計81の目標を書き込んだ形式をとっていて、このような手法は大きな目標に向かって一歩ずつ進むための具体的な行動を明確にするという意味で非常に効果的だと注目されている。
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