師匠はデヴィッド・ボウイとブライアン・フェリー
10代、20代で影響を受けたのは、ロックミュージックでした。特にデヴィッド・ボウイとブライアン・フェリーが好きで。彼らの音楽から物事の考え方や美学など、多くを学びました。
ボウイに関しては、変化を必然とする彼の哲学に特に共感しています。自分自身のテーマでもある「変えてはいけないものを変えないために、変えるべきものを変え続ける」という考え方にも繋がっているかと思います。
ブライアン・フェリーは、常に“対象”に対して冷めているのが興味深くて。自分の生き方はそうではないんですが、対象との距離感というのは非常に重要だと考えています。クリエイティブディレクションをする際、直感を大事にしますが、「なぜそれが気になるのか?」を客観的に見ることにも重きを置いています。それにはまさに「対象との距離感」という視点が必要です。
近年は、特に美術館に行くことが増えました。純粋にアートに触れてインスピレーションを得るのも素敵ですが、キュレーションを理解することで物を見る視座が養われます。今年こういう展示をやっているから、来年ファッションの人たちはこんなものを気にするだろうな、という気づきを得ることもできます。
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なかでも、ミラノにあるプラダ財団美術館は秀逸です。ラグジュアリーブランドがやっている美術館というのは、ややもするとお金に余裕があるが故の社会貢献的に捉えられるかもしれない。でも、プラダ財団美術館はキュレーションにしっかりとした哲学があり、未来の社会を良くするための美や知への投資というブランドの矜持を感じさせます。
冬に見た展覧会「リサイクリング・ビューティ」は傑作でした。中世からバロック時代の古代遺産の再利用に注目し、断片化・再利用・解釈の重要性を伝えるという内容です。
特にユニークだったのが、机の上に古美術品を置いて、オフィスチェアに座って観るという実験的な展示。これは観る人によって、まったく違う世界観を創り出したことでしょう。椅子はハーマンミラー製 イームズ アルミナムチェアだったので、それを20世紀のクラシックと捉えて考察した人もいたでしょうし、ただ機能としての椅子と捉えて鑑賞に集中した人もいるでしょう。鑑賞する側の創造性やリテラシーが問われるという点でも興味深かったです。
洋服でも、そのデザインやディテールに何の意味があるのかに気づいているか、気づいていないかで、価値や接し方がまったく違ってくる。「このボタンは木で出来ているから生分解する。だからこのブランドは地球環境に配慮したブランドだろう」と気づけば、その一着はストーリーのあるものになりますし、ブランドへのロイヤリティも生まれます。でも、その視点を持っていなければただのシャツで、1シーズンで着なくなるかもしれません。
同じものでも、まったく違う価値を創出できる。その視座を養うのに、美術館に足を運ぶのは有効で、意味のあるお金と時間の使い方だと思います。それこそ、一生を左右するくらいの衝撃を与えてくれることもありますから。
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