外敵に子をさらわれた親の気持ちを思う
よちよち歩くペンギンを表紙にもあしらい、全体から可愛らしさが漂うデザインも魅力の写真集だが、どうして岡田さんはペンギンに興味を抱いたのか。
聞けば、そもそものきっかけは映画『皇帝ペンギン』だった。それは南極大陸の厳しい環境下で暮らす皇帝ペンギンを追ったドキュメンタリー。鑑賞後、みずからも現地に赴き撮りたいと思うほどに影響を受けたという。
「その頃は既に水中写家として活動していて、イルカやザトウクジラなど海洋生物を撮るため世界中の海に潜っていました。南極へ行くのも気持ちのうえで支障はなかったんですが、調べてみると簡単には上陸できず、費用も高額。それに遠くから望遠レンズでしか撮れないとも。
どうしようかと考えていたタイミングで、フォークランド諸島をメインにコーディネイトしている日本の方と出会いました。それで『一緒に行きますか?』と誘われ、同行したんです」。
ただ、被写体となる動物を「撮りたい」と思えるかどうかは現地入りしない限り未知数のようだ。そこは感覚的なところが大きく、実際に会い、動きや匂い、佇まいを感じるまではわからないのだという。
「カリフォルニアにラッコを撮りに行ったら船着場にいるアシカのほうにフォーカスが合ってしまったり、過去にハマらなかった経験もしているんです。だからペンギンも実際に行ってみないとわからないなと考えていました。
でも、どハマりしましたね(笑)。愛嬌があり、動きがコミカルで見ていて面白い。それに4歳だった娘と身長が同じくらいで、子供を撮っているような感覚にもなりました。
二足歩行だから擬人化しやすかったんでしょう。すぐに感情移入できたんです」。
撮影は朝晩の光の中だけにし、それ以外の時間は彼らの動きを観察することに使った。すると徐々に生態がわかってきた。
卵を育てているときには動かない。集うのは外敵から身を守るためであることから、仲が良いわけでなく、喧嘩も多い。
「トウゾクカモメに子がさらわれる様子もよく目にしました。僕も子の親ですから、今どんな気持ちなのだろうかとか、考えてしまいましたね。
ペンギンは無表情なので顔つきから感情を読み解くのは難しいんです。だからこちらの感情をのせやすいというのもあって」。
海中に餌を取りにいき、再び岸に上がってくるときは最も外敵に狙われやすいタイミング。実際に襲われ、また襲われなくても打ち寄せる波に煽られて岸壁にぶつかり血を流すといった光景を岡田さんは何度となく目にしてきた。
まさに彼らは命懸けで生きている。そして過酷な日常の中に訪れるからこそ美しさがいっそう際立つ瞬間を切り取り、一冊にまとめたのである。
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