幾千万羽のペンギンとたったひとりの人間
自然写真家 岡田裕介さん●1978年、埼玉県生まれ。 ペンギンやザトウクジラ、イルカなど、 海辺の生物をテーマに活動する自然写真家。 先頃アラスカのシロクマをテーマに10年間 撮り続けた最新作「WONDERLAND」を発表。https://lit.link/yusukeokada
「片道5日間ほどかかりました。まずは北米の都市を経由してチリの首都サンティアゴに入り、国内線に乗り換えて同国最南端のプンタ・アレーナスへ。
翌朝、週に一度飛んでいるフォークランドへのフライトに乗り、現地に入ったあとは空港近くで1泊。起床後、撮影地に向けて移動するという感じでした」。
初めて訪れたのは2012年の冬。最も西にあるニューアイランドという島を目指した。
「全域が自然保護区のため許可がなければ入れないところでした。見渡す限り手付かずで、ペンギンに加え、オタリアなどの哺乳類、アホウドリやカモメなどの鳥類といった野生動物にそこかしこで出会い、それ以外は山小屋が数軒あるのみ。僕にしてみれば寝泊まりしながら撮れる絶好の場所でした。
実際、このときの撮影で感じたペンギンとの距離感は、自然動物を撮るうえで最も好ましいと感じるものだったと思います。山小屋のドアを開けたら、そこに数えきれない程のペンギンがいるんです。
一方で人間は僕ひとりですから。地球上には、まだこんな場所があったんだなと、感動しましたね」。
撮影意欲を掻き立てられる状況だった。しかもペンギンは種類により棲む場所が異なる。そこでいくつかの島を巡り、フォークランドに暮らす5種類のペンギンを撮っていった。
ただ、現地には3週間ほど滞在したものの、一度の撮影では作品としてまとめられないと直感した。
「他の季節にも撮りたいと思い、2回目は14年の春にフォークランドへ行きました。このときは手応えを得て、写真展の公募に申し込んだものの、落選して……。悔しかったですね。
そこで2年後にまた現地へ。撮り方も変えて、それまでは“ペンギンしか撮っていなかった”ものを、絵をもっと広く捉えて“フォークランドに生きるペンギン”を意識することにしました」。
「その場所にいる野生動物を美しく撮ろう」という気付きによって、それまで以上に天候や光にこだわり、フォークランドという場所の美しさにこだわった。
この3度目の渡航が写真に奥行きをもたらせ19年の写真集の上梓へ。足掛け6年を費やし作った写真集はキャリア初となるもので、自然写真家として生き残っていくための勝負の一冊という位置付けともなった。
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