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「偶然の産物」をビジネスで成功させるには


現在AMPHITEXは、ヨーロッパと日本の北陸で量産に向けての準備を進めている。

「僕は世の中に届けるのも発明のうちだと考えています。決して、R&Dの上流だけが発明ではない。量産工程においては、先端素材を開発するR&Dとは別のクリエイティビティを発揮できるので面白いです。それに、テキスタイルのような量産型のビジネスだと、工程での工夫が成功したときのレバレッジが大きいです」

AMPHITEXは2022年、英国王チャールズ3世と元アップルのデザイン最高責任者ジョナサン・アイブが設立したTerra Carta Design Lab賞を受賞した(Photo by Terra Carta Design Lab)

AMPHITEXは2022年、英国王チャールズ3世と元アップルのデザイン最高責任者ジョナサン・アイブが設立したTerra Carta Design Lab賞を受賞した(Photo by Terra Carta Design Lab)


オペレーション重視の工場でクリエイティビティを発揮するのに、亀井は、「知り過ぎない。自分の頭で考える」ことが重要なのだという。

「なぜこの方法なのか、疑問に思わないとダメなんです。昔は意味があった方法でも、前提条件がかわっていることも多いです。昔誰かが考え切ったことでも、今も毎回それがいいとは限らない。先端素材の開発は、前提の知見、先行研究からのインスピレーションに加え、当たり前を当たり前にしない姿勢が大事です。

RCAではみな自由に発明をしていました。自由自在にやってもなんとかなるということを目の当たりにしていました。でもそれだけでは“偶然の産物”のようなもの。自由に考えてできた“偶然の産物”を、ロジカルに考え直す。その両輪が大事です」

AMPHITEXは2024年に複数のグローバルブランドとのコラボレーションを加速させ、2025年以降は、世界各国でAMPHITEXの商品が生活者に届いている世界を目指す。

2019年のインタビューで話した3年後の目標はほぼ実現できそうな距離にいる亀井に、次なるターゲットを聞いた。

「5年後はアパレルのリサイクルの問題一つとっても、今までとは全く異なる景色が見えているはずです。これから起業するビジネスは、多かれ少なかれ環境への配慮なしには実現できない。当面はAMPHITEXの実用化に向けて走りつつ、他のプロジェクトも走らせたいです。

僕は、素材の開発から始まり、その後はプロダクト、会社を作ってきた。この先はビジネスモデルのイノベーションや産業そのものなど、もっと大きなクリエイションに挑戦したいと思っています。ビジネスの挑戦はたのしいですが、時々、白衣を着て淡々と素材を作りたいなと思う時もあります(笑)」

環境に配慮したAMPHITEXのウェアを着て、自然の中で思い切り深呼吸する未来はそう遠くない。

グローバルな経営チーム。メンターに元Appleジョナサン・アイブ、VC VENREXのSasha Trower、欧州委員会からIrene Maffiniなどのメンバーが名を連ねる

グローバルな経営チーム。メンターに元Appleジョナサン・アイブ、VC VENREXのSasha Trower、欧州委員会からIrene Maffiniなどのメンバーが名を連ねる

亀井 潤
AMPHICO CEO。起業家、材料科学研究者、バイオミミクリーデザイナー。東北大学 大学院 応用化学専攻でポリマーサイエンスを研究。卒業後、2015年に英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学。2017年にRCAと東京大学生産技術研究所が共同で設立したDLX Design labでデザインと先端科学を横断する複数のプロジェクトの立ち上げに従事。2018年に人工エラ技術を開発、AMPHICOを創業。人工エラで使用した技術を応用し、100%リサイクル可能、有害物質を一切含まない透湿防水性テキスタイルAMPHITEXを開発する。



提供記事=Forbes JAPAN

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