AMPHICOが開発する人工エラ(左)と透湿防水テキスタイル「AMPHITEX」(右)
当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら。 水中でも呼吸ができる「人工エラ」。水没した未来の都市を想定したこのプロダクトは、ロンドンにある世界有数の芸術系大学院大学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で生まれた。
発明したのは、材料科学研究者としてキャリアをスタートした亀井 潤。現在は、100%再生可能な透湿防水テキスタイル「AMPHITEX」を開発するスタートアップAMPHICO(アンフィコ)のCEOだ。
「デザインは全く経験がなかった」と話す亀井は、なぜRCAに留学し起業したのか。人工エラの発明をどう社会実装し、スケールさせるのか。
5月30日に約1.5億円の資金調達を発表し、次世代テキスタイルの量産体制に突入したAMPHICOの現状を、ロンドン在住の亀井に聞いた。
素材開発から、デザインの世界へ
水没した未来の都市──。まるで映画のような設定に聞こえるが、亀井は「既にどこかで起こりつつある未来」と話す。
水への危機感は、2011年の東日本大震災にさかのぼる。東北大学大学院 応用化学専攻でポリマーサイエンスを研究していた当時、地震と津波の前にもろく崩れる現代の文明を前に、自然と科学、そしてテクノロジーの共存を考えるようになった。
また、地球温暖化により、人は今よりも水の近くで暮らすことになるだろうと想像し、トンガ、ツバルといった海面上昇の問題と向きあう地域でのリサーチを重ねた。
水没した都市で人工エラを装着して暮らすイメージ。亀井は自然界からヒントを得て開発するバイオミミクリー(生物模倣)デザイナーでもある
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学院大学、RCA)に留学したのは、2015年。日本で撥水、撥油などの素材開発をしながら、「開発だけでなく商品を届けたい、プロダクトデザイナーになればそれができるのでは」と考えていた頃、RCA出身者と出会ったのがきっかけだった。
「RCAにはデザイン未経験でも受け入れてくれる専攻があり、約20の国から異なるバックグラウンドの人たちが集まっていた。建築家とデザイナーの二人が、プログラミングできる人がいないのに、自動運転の会社を起業してしまうとか。そんな自由な発想をする人たちに影響を受けました」
亀井が留学したRCAのInnovation Design Engineering(イノベーションデザイン工学、IDE)は、約40年の歴史を持つコースだ。デザイン、エンジニアリング、科学、ビジネスの統合領域で、新しいタイプのイノベーターを輩出することを目的としている。実際、スタートアップする学生も多く、その分野はヘルステック、食、都市デザインなど幅が広い。
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