OCEANS

SHARE

2023.07.09

ライフ

元プロ野球監督・矢野燿大「まずは楽しむ、挑む。気合や根性はついてくる」流儀



当記事は「The Wordway」の提供記事です。元記事はこちら(第1回第2回第3回)。
「昨日の自分を超える」をテーマに各界のトップランナーの言葉を音声とともに届けるメディア『THE WORDWAY』。音声、インタビュー全文を楽しみたい方はオリジナル版へ。
今回のアチーバーは昨シーズンまでプロ野球・阪神タイガースの監督を4シーズン務めた矢野燿大さんです。

矢野さんは1990年、ドラフト2位で指名され、中日ドラゴンズに入団。捕手としてレギュラーに定着できない日々が続きましたが、97年の阪神へのトレードをきっかけに定位置を獲得。名将・野村克也監督との出会いも成長を後押しし、星野仙一監督が率いた03年には主力として18年ぶりのリーグ優勝に貢献しました。

2010年に現役を引退し、18年に阪神の一軍監督に就任。自主性を重視したチーム作りを進め、指揮を執った4シーズンすべてをAクラス(3位以内)で終えました。「マイナスな時こそチャンス」と語る逆境を乗り越えるメンタリティー、組織作りで重視したポイントとは―。

言葉①「言葉は大事。夢は叶う。比べるのは昨日の自分」そう言い続けてきた



Q:阪神の監督という重責を終えられて、現在はどのように過ごされているのですか?

やっぱり監督って、すごくやりがいがあったし楽しいこともすごくあったんですけど、コロナ禍で色んな制限があったり、消耗する部分も結構あって、今はそうした部分を休みながら、蓄えていくというか、張りつめてた分、のんびりゆっくりといった感じですかね。

Q:まずは「監督」という仕事について聞かせていただきます。ビジネスにおける「リーダー」の立場ですが、組織を作るときに何を意識し、どこから着手していったのでしょうか。


僕は、絶対優勝するし、勝つし、そこを思いっきり目指していく。一方で、そこだけになると結果が出なかったらモチベーションが下がるじゃないですか。だから「楽しむ」とか「諦めない」「挑戦する」とか、そっち側をもっと大事にしたいなと思ったんです。

「こんな緊張する場面であんな盗塁した!」ってもし見てくれた子供が感じてくれたら「俺も頑張ろう」とか、仕事で落ち込んで甲子園に来てくれてたファンの人が「負けてる試合でもこいつらこんな姿勢見せてくれるんや」とか、勝つこと以外のプラスアルファを僕らの野球から感じてもらいたいじゃないですか。

その姿勢を自分たちが貫いた時に自分たちも成長できますし、「勝つだけじゃもう俺は足りない」と思えたので、そっち側のことばかり伝えてました。夢と理想を語ることが、リーダーには必要だし、大事にしていましたね。



Q:矢野さんが二軍監督時代に掲げた「超積極的」「諦めない」「誰かを喜ばせる」という方針の下、チームは驚異的な勝率で、日本一に上り詰めました。

「全員初球打って27球でゲームセットになっていいから、お前全員初球打ちに行け」っていうスタンスを伝えていました。

一軍に上がって1打席しかないチャンスで、初球見逃せないじゃないですか。それが、二軍のこの打席からってなれば、練習の初球から、体の準備をするところからっていう風に、準備力も上がっていくんですよね。もちろん、「楽しむ」とか今までとは逆のことで、その分いっぱい叩かれましたけどね。



Q:一軍を率いた4年間は、優勝こそ果たせませんでしたが、全てAクラス(3位、2位、2位、3位)という結果でした。少し時間がたって、この結果をどのように捉えていますか?

やっぱり、日本一になってないっていうのは自分も悔しかったし、それを全力で目指してきたんで、4年連続Aクラスって言ってもらえて、できた部分ももちろんあるんですけど、それは唯一悔いが残るところですね。

これは自分よがりですけど、去年の開幕前に(シーズン後に)「辞める」って言ってスタートして、開幕9連敗でボロボロになったけど、あそこから最後3位に入ってくれたっていうのがね。

自分の勝手な解釈なんですけど、「諦めない姿」とか「勝っても負けてもグラウンドに出て挨拶して、子供たちの見本になれるような姿」とか、そっち側を伝えていくことで、プロとしての姿勢とかあり方、内面の部分は、みんな本当によくやってくれた。だからいいチームは作れたなっていう解釈は自分の中にはありますね。



Q:シーズン開幕前の監督退任発表には否定的な声も少なくありませんでした。あらためて、どのような決断だったのでしょうか。

嘘をつきたくなかったんですよね。「監督やってください」って言ってもらえた時に「やらしてもらいます。でもラスト1年で、僕は一旦ユニフォーム脱がさせてください」「その代わり日本一になるために全力で監督としてやり切ります」っていうのを球団に伝えてたんで。それが途中で漏れた方が裏切りだなと思ったんですよ。

Q:言葉にして直接伝えることの意味、矢野さんの選手への思いをすごく感じます。

言葉はすごく大事にしてきましたね。二軍の時から「言葉は大事、夢は叶う、比べるのは昨日の自分」っていうこの3つの合言葉を選手たちにずっと言ってたんです。バッティング練習中に調子下がってたりしてる選手に「比べるの何やったっけ」「昨日の自分を超える、練習するぞ」とか、そんなふうに言ってて。

「なれたらいいな、ではなれてない自分しか想像でけへんけど、やります、3割打ちます、優勝しますってなったら出来た自分が想像できるやろ」って。だから選手たちの語尾が「今年は優勝します」とか「勝ちます」って、「打てたらいいな」っていう選手がめちゃくちゃ減ったっていうのは、僕もすごく実感してますね。


2/3

次の記事を読み込んでいます。