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2023.06.20

ファッション

フランス人気質を体現! 半世紀前のパリの空気が感じられるザ・ポップなスプリングコート

「S2 タイムカプセル」。2万3100円/スプリングコート(スプリングコート 03-6868-5224)

「S2 タイムカプセル」。2万3100円/スプリングコート(スプリングコート 03-6868-5224)


目の肥えたユーザーのあいだで話題になっているスニーカーがある。スプリングコートの「S2 タイムカプセル」がそれだ。

「S2 タイムカプセル」は1970年代に存在した「ディスコ」というモデルと当時のシューズボックスが着想源になっている。パイピングが施されたハイカット・パターンを「ディスコ」から、オレンジとライトブルーのカラーパレットをシューズボックスから採った。ロゴも当時のそれを復活させた。

【写真20点】「半世紀前のパリの空気が感じられるザ・ポップなスプリングコート」の詳細写真をチェック



「かつて自社工場を構え、そして現在も本社を置くベルヴィル地区はスプリングコートのアイデンティティ。『ディスコ』はその地でつくられていた時代を知る、希少なモデルなのです」(ワンオー/ボードディレクター、長井美樹さん)。

古き佳き時代を偲ぶ、アーカイブの復刻

スプリングコートはパリ11区のベルヴィル地区で創業、工場もその地にあった。

スプリングコートはパリ11区のベルヴィル地区で創業、工場もその地にあった。


スプリングコートのルーツは1870年にパリ11区のベルヴィル地区でセオドア・グリムメイソンが創業した樽の製造工房、Th.グリムメイソンにまで遡ることができる。

樽の製造業は順調に推移した。財を成したグリムメイソン家が次の一手に選んだのがゴム加工業である。ゴムは樽の水密性を高めるために欠かせない素材だった。

事業拡大のなかから生まれたのが「コリブリ」。1930年、三代目のジョルジュ・グリムメイソンがつくりあげたラバーブーツである。

“コリブリ”は世界最小の鳥といわれるハチドリのこと。プロセイン王国のシンボルであるワシに対抗してその名をつけたというから、普仏戦争で辛酸を舐めた人民は喝采を浴びせたに違いない。

「G2」。1万3200円/スプリングコート(スプリングコート 03-6868-5224)

「G2」。1万3200円/スプリングコート(スプリングコート 03-6868-5224)


そうして1936年、満を持してリリースしたのがスプリングコートであり、今もコレクションの中核をなすテニスシューズ「G2」だった。

それはテニスをこよなく愛したジョルジュの念願だった。モデル名に冠した“G”はもちろんジョルジュの“G”である。史実には残っていないが、「コリブリ」は「G2」をつくるための肩慣らしだったのかも知れない。

「G2」はピエール・バートルズ、スザンヌ・ランラン、ヨハネス・ビヨルンといった当時一線で活躍したフランスのテニスプレイヤーが足を滑り込ませた。しかしそれも当然だろう。



それまでのテニスシューズといえば今でいうエスパドリーユで、その靴は一試合でボロボロになった。いち早く導入に踏み切ったヴァルカナイズ製法とコットン&ラバーで構成されたカップインソール(現在はポリウレタン)を基本構造としたスプリングコートは耐久性に優れるのみならず、驚くほど軽やかにコートを走り回れた。

ジョルジュは“跳ねる(Spring)”と“コート(Court)”をそのままつなげてブランド名とした。

ラバーソールに穿たれた4つの穴もスプリングコートを語るときには欠かせないスペックだ。空気の通り道として機能するその穴は炎天下のプレイにおいても不快を遠ざけた。

往時のイラスト。コミカルな男性の名はスフリックスだ。インソールの下にも描かれる。

往時のイラスト。コミカルな男性の名はスフリックスだ。インソールの下にも描かれる。


インソールをめくれば口を尖らせた子どものイラストがあらわれる。その名は、スフリックス。彼が息を吹いて湿気を追い出しているというユーモアだ。

製造拠点はスペインとタイに移したが、スプリングコートで働く人々にとっては今もベルヴィル地区で靴をつくっていたことは誇りであり、その時代、その地でつくられた「ディスコ」は思い入れのある一足であり、彼らは「S2 タイムカプセル」を履いて文字どおり半世紀前に想いを馳せるのだ。

そのような歴史的背景を知れば俄然物欲が刺激されるが、シンプルを極めたデザイン、装いのアクセントになるカラーパレット――「S2 タイムカプセル」は純粋にプロダクトとしての完成度が高い。

フレンチシックを体現するブランド



スプリングコートといえばジョン・レノンが有名だけれど(オノ・ヨーコとの結婚式もアルバム「アビィ・ロード」のジャケ写もジョンの足元を飾ったのはスプリングコートだった)、セルジュ・ゲンズブールやポール・ウェラーといったお膝元のファッション・アイコンのワードローブにも並んだ。

アニエスベーがドレスシューズを除くフットウェアの製作を委ねてきたのはスプリングコートだが、その理由を問われて「スプリングコートにはフレンチシックがある」と語ったことがある。

スプリングコートがパリっ子の心をとらえて離さなかったのはアニエスがいうとおり、フレンチシックを守り続けてきたブランドだからだろう。



これを端的にあらわすのが世界中の誰もが知るブランドになった今も(数年前の統計だが、累計販売足数は2500万足! を突破したという)、メインコレクションは――ローカットの「G2」、ハイカットの「B2」、ミドルカットの「M2」――という3つしかない事実だ。

『フランス人は10着しか服を持たない』という本が一時期話題を呼んだが、スプリングコートは飽きのこない定番をこよなく愛するフランス人気質をもっとも体現しているブランドということがいえるかも知れない。

「この点、真意を尋ねたことがあるんですが、彼らは迷うことなくこう答えました。『快適を追求すればものごとはシンプルになっていきます』、と」(長井さん)。


[問い合わせ]
スプリングコート
03-6868-5224

竹川 圭=取材・文

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