編集部:そこが転機となったんですね。
馬場さん:まさか引き受けてもらえるとは思っていませんでしたが(笑)。そこから会社の予算の見直しや、自社のブランドの立ち上げが始まりました。正直なところ、「ブランドって何?」というところから始まりましたね。「エルメス」や「Supreme」みたいなものだけがブランドと思っていた僕からすると、自社の焼き物でブランドを作るというのはどういうことが最初は全く理解できなかったわけです。
そこからはとにかく勉強。中川さんアドバイスのもと、最初は数字を見ながら、自社で、どれがどれだけ売れているのか、そして波佐見焼の中で僕たちはどういうポジションにあり、どんな強みがあるのか、これからどのように売っていきたいのかを把握し整理していきました。
編集部:中川さんとのやりとりの中で、最初のブランド〈HASAMI〉のブロックマグカップのイメージを作り上げられて行ったんですか?
馬場さん:そうですね。波佐見焼はもともと日常雑器作りで発展を遂げてきたもの。薄くて繊細で美しいものよりも、普段づかいでガシガシ使えるものにしたいという方向性が見えてきました。また当時僕は23歳。実際に営業に回ったり商品をプレゼンしたりするのは僕なので、年相応なものを作りたいということでマグカップを作ることになりました。
〈HASAMI〉シリーズのブロックマグ。「60年代のアメリカのレストランで使われていた大衆食器」をテーマにしたカラフルでポップ、機能的で丈夫なマグカップは好評を博した。
編集部:プレゼンをする馬場さんご自身が魅力的に感じるものであることが大切だったんですね。
馬場さん:一番は、販売する人間と商品がマッチしていることが大事だということ。これは僕が作りたいから作ったんだと胸を張って言えないと、最初の殻は破れないと考えたんです。
編集部:馬場さんご自身がデザインから手がけられていますが、どんなところにこだわられたんですか?
馬場さん:柄を施さず、色1本で勝負したところでしょうか。定番のTシャツみたいな食器ブランドになれればいいなという思いがあったんです。色んな人がデザインしたプリントがこれに載って、色んな人が使ってくれたらいいなと。また、ターゲットを自分の友人たちに設定しました。普段焼き物を買わないような、同世代の身近な仲間たちが買いたくなるようなものを作ることができれば一番いいねと思ったんです。
編集部:出来上がったマグカップは、スタッキングできるところも特徴的ですよね。これはどのようなところから着想を得たんですか?
馬場さん:それは単純に、一人の人にたくさん買ってもらいたかったからなんです。マグカップって意外と置き場所に困りますよね。実際にこのマグカップを作るにあたって、勉強のためにリサイクルショップで50個くらいマグカップを買った時も、しまう場所がなくて困った。だから重なるようにすれば良いのではと思いついたのがスタッキングの発端です。あとは、ブランドのキーワードのひとつに、「クスッと笑える」というのがあります。レゴブロックのように色を合わせて積み重ねていく”遊び心”を表現しました。
編集部:面白いですね。新しい発想のこのブロックマグは世の中に大きなインパクトをもたらしました。その後も様々な〈BARBAR〉、〈ものはら〉など新しいブランドを精力的に立ち上げていますが、馬場さんの発想の源はどこにあるんですか?
〈BARBAR〉シリーズのいろは。江戸時代、波佐見町で作られていた庶民の磁器食器「くらわんか碗」を現代に合わせて再現したもの。素朴な風合いが人気を博している。
馬場さん:実はここ何年かは、あまり雑誌などを見ないようにしています。今流行っているものを目にすれば、真似したくなってしまうものなんです。過剰に情報をインプットするのではなく、どこか旅先で何気なく見つけたものや、映画や漫画の中で自然と目に入ったものとかを参考に、ブラッシュアップして商品イメージに生かしています。
編集部:映画や漫画など、焼き物とは全く異なるジャンルのものからインスピレーションを受けられているんですね。
馬場さん:そうですね。民藝や手仕事の路線を追求するブランドやメーカーは、僕らではないエキスパートがたくさんいるので。例えば、先日はEVISENというスケボーブランドのグラフィックを見て感激し、それをきっかけに実際にコラボレーションをして新しい商品づくりを進めています。
スケボーの板を焼き物で作り、彼らのグラフィックを載せたものを作ろうとしているんです。昔からある飾り皿という文化を今の世代の人たちに落とし込むには、普通のお皿の形ではなく、スケボーのデッキのほうが親しみやすいのではないかと考えました。
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