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2023.05.10

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京都が舞台のKYOTOGRAPHIE 2023、写真家たちは「境界」をどう捉えたか

KYOTOGRAPHIE 2023 高木由利子さんの展示『PARALLEL WORLD』(筆者撮影)

KYOTOGRAPHIE 2023 高木由利子さんの展示『PARALLEL WORLD』(筆者撮影)

当記事は「Forbes JAPAN」の提供記事です。元記事はこちら

今年第11回を迎えた「KYOTOGRAPHIE」が5月14日まで開催されています。これまでも毎年のように訪れていましたが、今回は会期直前に開催されたプレスツアーにお誘いいただき参加してきました。

2023年のテーマは「BORDER」。共同創設者/共同ディレクターのルシール・レイボーズと仲西祐介の2人はテーマについて下記のように述べています。

「あらゆる生命体はさまざまな《BORDER=境界線》を持ちながら生きている。境界線はその存在を形作り、その経験を規定する。そして、生命体はそれぞれの境界線を守り・壊し・広げ・狭めながら生きる」(プレスリリースより)
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この記事では、京都の美術館、寺院、京町家など19の会場に点在する展示の中から、特にテーマとの深いかかわりを感じた2人の作家の展示を紹介します。

テーマとのシンクロニシティを一番に感じさせたココ・カピタン

展示を一通り観たあとに、個人的にテーマとの共鳴を一番感じたのは、ロンドンとマヨルカ島を拠点に活動するスペイン人アーティストのココ・カピタンの展示『Ookini』でした。

1992年生まれで、昨年30歳を迎えたカピタンは、2017年にグッチとコラボレーションしたことで一躍話題となり、昨年には渋谷のPARCOで日本初の個展が開催されたところでした。



そのカピタンが、KYOTOGRAPHIEのレジデンスプログラムで昨年10月から12月まで京都に滞在。未来の釜師、狂言師の息子、人形師の息子、禅僧を目指す学生、舞妓、そして学校の制服を着たスケーターなど、まだティーンエイジャーの若者たちをフィルムカメラで切り取った情景が、ASPHODELを中心に合計3つの会場で展示されています。

まだ10代の若者たちが、ユニフォームを纏うことや歴史あるフォーマットにはめられることで、大なり小なりの「制限」が与えられている様子にはいろいろなものが宿ります。

外国人の目を通すと異質にも映るそういった光景を彼女はカメラに収めていますが、その写真で中心に据えられているのは窮屈さではなく、むしろすでに彼らの中に芽生えている美学であったり、枠からはみ出て新しいことに挑戦する若さに満ちた精神性であったり。枠があるからこそより際立つ感覚が、ファインダーを通じて軽快にあぶり出されていました。

額装もありきたりではなく、フレームの形に象られた木製の「板」にプリントがマグネットで留められているだけというスタイルには、彼らを額の中に閉じ込めるのではなく、外の空気に触れさせておきたいという彼女の想いが込められていたようにも感じました。
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二条城での圧巻の展示、高木由利子『PARALLEL WORLD』

今回のKYOTOGRAPHIEのメインともいえる二条城 二の丸御殿 台所・御清所での高木由利子さんの展示『PARALLEL WORLD』も印象的でした。

高木さんは僕と同じく軽井沢にお住まいで少し親近感があるのですが、ここまで大掛かりな展示を観るのは実ははじめて。和紙にプリントされ、障子のフレームに「表装」されて吊るされた作品などは、決して過剰ではないながら、二条城の400年以上の歴史に負けず、この舞台でしっかりと存在感を放っていて圧倒されました。



会場では、高木さんが40年にわたって日常的に民族衣装を着ている人たちをモデルに撮影した『Threads of Beauty』シリーズと、80年代から撮り続けたコムデギャルソンやイッセイミヤケなどのクリエーション、ディオールのオートクチュールを撮り下ろした新作を含むファッション写真のシリーズとが同時にプレゼンテーションされています。
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高木さんは「この二つの世界に共通の愛を感じた」とコメントされていましたが、これもひとつの“BORDER”なんだろうなと感じました。

2つの世界の間に“BORDER”があってはじめて、タイトルにもなっている”PARALLEL(並行)”という概念が生まれてくる。この並行世界は強くシンクロしていて、それぞれの世界をリスペクトしながらも、そこにある境界は越えられるものであるということ、さらには「その境界の先にあるもの」を、この展示は見せてくれていたように思いました。

また、高木さんは時代という概念にも似たようなアプローチをしていました。「今回の展示はファッション史を時系列に沿って網羅的にアーカイブしたというよりも、個人の好みでピックアップしたパーソナルなアーカイブ」と表現されていましたが、個人の嗜好という軸を据えることで、ファッションの世界における古さと新しさの間にある境界すら越えられるということが示されていました。



他ブランドの写真も展示する企画をディオールがスポンサーをするというのも、こういったコンセプトに対する見事な呼応だったのではないでしょうか。

ちなみに、会場のデザインは建築家の田根剛さんが手掛けていて、漆喰を使ったというマットな黒が写真をより引き立たせていました。

写真の表現の拡張を愉しむ

誉田屋源兵衛 竹院の間で開催されている石内都と頭山ゆう紀の二人展『透視する窓辺』では、世代の違う2人の女性写真家の作品のシンクロニシティを愉しめるし、両足院を舞台としたマリ出身の作家ジョアナ・シュマリの展示『Alba’hian』は、世界が新型コロナの苦境から明けていく希望を感じさせてくれます。

また、銀座のシャネル・ネクサス・ホールからの巡回になった京都文化博物館別館でのキューバの作家マベル・ポブレットの『WHERE OCEANS MEET』の没入感も外せません。

11回目のKYOTOGRAPHIEは、おそらく過去最高の完成度ではないでしょうか。世界各地のさまざまな世代の作家が写真というアプローチで「境界」に向き合っている展示は、目に見えない“BORDER”への気づきを与えてくれるはずです。

山本憲資=文・写真
Forbes JAPAN=記事提供

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