OCEANS

SHARE

2023.05.01

ライフ

「社員のプライベート」に上司はどこまで対応し、誰にまで共有すべきか


「モヤモヤ り〜だぁ〜ず」とは……

本日の相談者:運輸業・42歳
「私の部下には、認知症の親の介護をされていたり、不登校の小学生を育てていたり、少なからず家族の問題を抱えた人がいます。

上司として勤務に柔軟性をもった対応をしているつもりですが、その負担が他のメンバーにかかってしまい、部内がギクシャクしてしまっています。家族問題の詳細をオープンにもできないし、そもそも私は専門家でもないので、どう対応すればよいか迷っています」。
アドバイスしてくれるのは……

そわっち(曽和利光さん)
1971年生まれ。人材研究所代表取締役社長。リクルート、ライフネット生命保険、オープンハウスにて人事・採用部門の責任者を務めてきた、その道のプロフェッショナル。著書に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『日本のGPAトップ大学生たちはなぜ就活で楽勝できるのか?』(共著・星海社新書)ほか。

 メンタル悪化の本当の原因

私は以前、健康保険組合のマネージャーをしていました。会社でメンタルヘルスを悪化させる人に、何か傾向がないかどうかを調べていたところ、わかったことがあります。

それは、メンタルが悪化した原因の多くは、実は仕事ではなくて家庭などのプライベートの問題だということです。

もちろん過重労働や仕事上でのストレスもメンタル悪化の原因にもなりますが、多くの場合それらは「ひきがね」であり、本当の原因は何らかのプライベートの問題でした。

プライベートの問題は表にはあまり出てきませんので、人をつぶしている要因は「仕事」だと思うでしょうが、実はそうではないことも多いのです。
 

人は仕事だけでつぶれない

その結果を見て、「確かに、仕事よりも家庭など人生の他の部分のほうが大事だしな……」と思いました。

アメリカのホームズ博士によって考案された「ストレス表」というものがあります。メンタルヘルスに影響を与える各ライフイベントから回復するまでの期間を点数化したもので、200点を超えると2年以内に50%が、300点を超えると2年以内に80%が不調になるとされています。

その中で点数の高いものは「配偶者の死」が最大で100点、次に「離婚」(73点)、「夫婦の別居」(65点)、「外傷、疾病罹患」(53点)など、プライベートばかりです。

仕事に関連しそうなものは「退職」(45点)が最大で、「再就職」(39点)、「職場の配置転換」(36点)であり、一般的にメンタルヘルスの主要因にも思われる「上司とのトラブル」は23点とそれほど高くありません。

やはり、人は仕事だけでなく、よりプライベートに悩むものなのです。


誰もが家庭のことで悩んでいる


 
こんな数値で示さなくても、みんな自分のことを考えればわかっているはずです。仕事は人生の大事な一部だけれども、家庭生活含む人生自体のほうが当然に重要だと。

それなのに、「家庭のことで悩んでいるのは自分だけ」「他の人はそんなことをお首にも出していないのに家庭の話をするのは社会人失格」とそれぞれ密かに思い悩んでいるのです。プライベートは通常、職場などで開けっぴろげに言うものではないために、みんな悶々としているのです。

もし、すべてを見通す神様がいて、それぞれに思っていることをお互いに共有してくれたら、「なんだみんな同じことで悩んでいたんじゃないか」と思うかもしれないのです。

私も実際、何事もなく過ごしているように見える人たちが、それぞれプライベートの事情で重荷を抱えていることを、人事の立場で知る機会も多くありました。


みんな自分事として考えるはず

そのように考えると、仕事以外のことで誰かが大変な目に遭っているときに、会社がそれをサポートするために柔軟に対応するということに対しては、多くの人が共感を持ち、許容するのではないかと私は思います。

なにせいつかは自分もそうなる可能性もあるわけです。認知症の親の介護をしている場合は、フレキシブルな勤務時間や在宅勤務、残業や休日出勤の回避などの配慮をする。

小学生の不登校については、相談窓口やカウンセリングの提供などのサポートができるかもしれません。そういう支援をしても、「あの人だけ贔屓してずるい」とは思わないのではないでしょうか。


家庭の事情はできるだけ共有しては

ですから私は、できることならば、家庭の事情については少なくとも一緒に働く人たちの間では共有してはどうかと思っています。

「疑心暗鬼を生む」ですから、何も言わないでいて特別支援だけを受けるのでは「なぜあの人だけ」「もっとちゃんとやってほしい」「迷惑だ」と思われてしまいます。

もちろん言いたくないことは言わなくてもよいですが、具体的に伝えなくても「何か家庭に事情がある」とさえわかれば、先にも述べたように誰でも「何か家庭に事情がある」わけですから、わかってくれるのではないかということです。


チームビルディングはできているか



これはあまりに性善説過ぎるでしょうか。私はそうは思いません。

もし、一緒に働くチームメンバーの家庭の事情を知らせても、支援をするのが嫌ということであれば、それは特別支援の問題ではなく、単にチームビルディングができていないだけではないかと思います。

チームメンバーは協働しているように見えて、誰とも心ではつながらずに、孤独な作業をしている状態であり、そんなときに「知らない誰か」の「家庭の事情」など聞かされても、それは確かに「そんなこと私は知らない。面倒臭い。迷惑だな」となってもしかたありません。

もし、家庭の事情を伝えるのに躊躇するなら、リーダーはチームづくりから始めなければなりません。


誰が誰に何を伝えるかは相談しつつ

共有の方法としては、まず本人の意思を最重要視するべきでしょう。どのようなことまで伝えるのかはもちろんのこと、誰が伝えるのか(本人か上司か等)、誰に伝えるのか(一緒に働く少数の人か部内全員か等)などについても、上司が勝手に裏でやるのではなく、相談しつつ決めなくてはなりません。

また、あまりに深刻な家庭の事情であったり、本人の心理的・身体的状況もかかわってきたりするようなケースの場合は、共有するかしないか、共有方法について外部の専門家のアドバイスを仰ぐことが必要です。

一度出た情報は二度と戻りませんので、ぜひとも慎重に進めてください。
グラフィックファシリテーター®やまざきゆにこ=イラスト・監修
曽和利光さんとリクルート時代の同期。組織のモヤモヤを描き続けて、ありたい未来を絵筆で支援した数は400超。www.graphic-facilitation.jp


曽和利光=文

SHARE

次の記事を読み込んでいます。