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高級車の常識が過去のものに

繁栄が続いた19世紀のロンドンでは馬車が増え、5万頭もの馬が働いていたという。そのため、1日に1000tもの馬糞がぼっとんぼっとんと路上に落とされ、市民は悪臭と不衛生に悩まされた。

主役が馬車から自動車に代わると、今度は排出ガス。大気汚染や、CO₂排出量の増加による地球温暖化という問題を招いた。BEVはこうした“移動時に悪いモノを出す”という問題を解決する。

EQSは現時点におけるBEVの最高峰で、動力性能や快適性には文句のつけようがない。

ここで注目したいのは独特のフォルム。エンジンがないことを前提にしたBEV専用設計だからボンネットが極端に短く、そのぶん居住空間を広く確保している。真横から見ると、胴長のダックスフンドっぽい。

馬車は4頭仕立て、8頭仕立てと馬の数が多いほどステイタスが高かった。自動車も、4気筒より12気筒と、シリンダーの数が増えるほど高級になる。馬やシリンダーの数が増えると先端部が長くなるから、高級(馬)車は先っちょが長いことが常識となった。

ところがこの車を見るとわかるように、BEVは高級車でも先っちょが短い。BEVはウンコやオナラをしないだけでなく、カッコの面でも従来の高級の概念を変える、“100年に一度”レベルの大改革なのだ。

モータージャーナリスト
サトータケシ
フリーランスのライター/編集者。仕事の息抜きに「グランツーリスモ7」と「FIFA 23」をプレイするとか。「子供の頃にプレステがなくて良かった、絶対に進学できなかったから」と、遠い目で語る。


BEVの“ヤキモキ”を解消!

泣く子も黙る高級サルーンのスタンダード、といえばメルセデスのSクラス。そのフル電気自動車(BEV)がEQSだ。エンジン付きと同様、標準仕様のベンツ版と高性能仕様のAMG版が用意される。

世界の潮流は既存のラインナップにBEVを加える(=車台を共有する)ブランドと、BEV専用の車台を新たに作って展開するブランドのふたつに分かれるが、メルセデスは後者。だからカタチもぶっ飛べた。

いかにも空力の良さそうなスタイルで、事実、高速道路を走ると風を切って走る感じがする。抵抗なくクルーズする感覚が気持ちいい。大型モデルながらまずまずの電費を稼いでくれたのは、空力の良さによるところも大きい。

東京から京都の自宅まで帰ってみた。途中充電なしでギリギリいけそうだったけれど、40%を切る前に休憩を兼ねて軽く電気を足しておく。そういう使い方が正解だ。

電気の消費具合やその予測、助言といった電気と電池のマネージメントがハード、ソフトともに優れているから、BEVにありがちな“ヤキモキ”もほとんどなかった。自分の車体のことは自分で心配して対処できる子なのだ。

今、最も優秀なBEVであることは間違いない。人を乗せても大いに喜ばれた。内外装ともに未来のベンツに見えるからだろう。

モータージャーナリスト
西川 淳
フリーランスの自動車“趣味”ライター。得意分野は、スーパースポーツ、クラシック&ヴィンテージといった趣味車。愛車もフィアット500(古くて可愛いやつ)やロータス エランなど趣味三昧。


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