実際の移住後の就業先の数としては、サービス業や一次産業が多いが、「新しいお店が増え、それらがメディアに取り上げられることで、市民の間にも移住関連の取り組みへの関心が高まっているのを感じます」と松野尾氏は言う。
不便も楽しむワーケーション
その呼び水となっているのが同市のワーケーションプログラムだ。
「PCを持って仕事をしながら、釣りを楽しんでいる人がいる」
働き方改革が騒がれだした頃、島にいるリモートワーカーの情報を得た五島市は、2019年、ウェブメディアと一緒に取り組んだ「五島列島リモートワーク実証実験」を実施。翌2020年には一般社団法人みつめる旅の企画運営のもと、「GWC(五島ワーケーション・チャレンジ)」を展開した。
2つの取り組みに、リモートワーク、多拠点、生産性などに関心を持つ当時の“アーリーアダプター”を中心に約150名が参加すると、9割以上が満足、7割以上が再訪を望む結果に。ビジネスパーソンの間で「五島=ワーケーション」の認知が拡大したほか、参加者のうち6名が市内で創業する余波もあった。
そして2022年、コロナによる中断を経て3年ぶりにGWCを開催。夏、秋、冬の3回、各2週間程度の開催期間の中で3泊4日以上滞在するという企画に、約150人が参加した。五島のファンだから、ワーケーションに興味があるから、環境を変えたくて、移住や多拠点を考えて……など動機は様々だ。
ところで、ワーケーションと聞くとの悠々自適なイメージがあるが、GWCには、文字通りチャレンジングな要素が多い。例えば、期間や最低日数が指定され、初対面の参加者と一緒に海辺のバンガローに滞在する。その宿泊エリアから市街地までは距離があるが、移動手段は限られている。
やや強制的に日常(に近いリモートワーク)を諦め、島民や参加者と協力し、いつもと違う時間との付き合い方を余儀なくされる。
夏の会期中にトークイベントのゲストとして来島した若宮和男氏(中央)と五島市地域協働課の庄司 透氏(左)、松野尾祐二氏(右)
「そういう不便なところを自分で解決してほしい。与えられたものをただ受けとるのではなく、積極的に関わっていく人の方が楽しめる企画だと思います。そういう人が島との親和性が高いというのもあります。でもそれは、島に限らず、会社や社会においてもそうですよね」と庄司氏。
眼前に広がる空間には物理的な余白があり、詰め込むことが難しいスケジュールには時間的な余白が生まれる。その環境で、ルーティンに追われることなく自然と戯れていると、普段使わない感覚が研ぎ澄まされ、思考もクリアに、深くなっていく。
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