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「時間軸でこの工程が終わったら次の工程へ、と進めて戻れなくするのではなくて、例えばお店に商品を入れてからデザインをし直したり、工程と時間軸を重ね合わせながらもっと素直に空間が欲求につながっていくような進め方をすべきだと思い始めているんです。

そもそも建築は完成しないし、一生完成しないんだ、という設定にする。そうすることで建築家だけではなくて利用者や関係者一人ひとりが主体的に参加できて、さらに自由度が高まっていく。参加することで変わっていく、建てられたものを享受するだけじゃない、という感覚が育まれていくような気がするんです」

建てて終わりではなく、その空間の使い方や運営の方法にまで、建築家や設計者がコミットする。それに応じて、定期的に建物の形も柔軟に変わっていく。これまでのスクラップ&ビルド的な建築の正反対をいくアプローチで、長坂はまた建築業界に風穴を開けようとしているのかもしれない。

ビジネス的に考えると継続してそれぞれのプロジェクトに関わることは経済的なリスクが大きいのではないかと思ってしまうが、長坂は「今、人日でプロジェクトに継続的に関わるような体制を整えている」そうだ。その企みは着実に実装へと歩を進めている。

最後に、著書のタイトルでもある『半建築』に対する長坂の解釈を聞いた。

「人によっていろんな捉え方をしてもらっているのが面白いところだと思っています。自分としては家具と建築の間、というような考え方だったんだけど、未完成ってことだよね、と言ってくれる人もいるし、”反”建築ってことでしょう、と言ってくれる人もいる。最後のは意外でしたけど」

長坂が提示する「半建築」。その言葉も彼が生み出す建築のように、人の解釈や文脈、感性が加わって完成されていくのかもしれない。

そしてその思想から生み出された建築は、私たちに本来的な持続可能性とは何か、必要とされているものとは何なのか、そしてそれらと誠実に向き合っているのか、と問いかけてくるようだ。

『半建築』(フィルムアート社、長坂常=著、2022年10月12日発売、定価:2400円)

『半建築』(フィルムアート社、長坂常=著、2022年10月12日発売、定価:2400円)


長坂 常◎スキーマ建築計画代表。1998年に東京藝術大学卒業後、自身のスタジオを設立。家具から建築、そして町づくりまで、幅広いジャンルで活動。どのサイズにおいても「1分の1」を意識し、素材から探求し設計を行う。日常にあるもの、既存の環境のなかから新しい視点や価値観を見出し、「引き算」「誤用」「知の更新」「見えない開発」「半建築」など独特な考え方を提示し続けている。


鈴木麻里絵=編集・文 大中 啓=撮影
Forbes JAPAN=提供記事

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