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福島の海を案じる人とつながっていきたい

少しの沈黙のあと、「それでもね、故郷の海は豊かなんです」と、西さんは力強く言った。

「冬はあんこうの産卵の季節。北茨城から福島沿岸で獲れて、あんこう鍋やとも和えにして食すのが人気の調理方法です。そのほかに天然のトラフグやノドグロも獲れるし、春先にはカツオ、夏以降はスズキ、ヒラメ、サワラが揚がります。

川の幸も豊かで、木戸川では鮭が遡上する様子が見られます。ここ数年は温暖化の影響から数が減っていますが、以前は身が余ってどうしようと言っていたくらいでした」。

海や川の幸に加え、米に多様な野菜や果物といった大地の幸もある。福島は食材の宝庫なのだ。

「故郷の食品の質が高いのは身をもって知っています。一方、ネガティブな声があるのもわかっています。モニタリング検査で国が定めた基準値を下回ったものだけが市場に出ているのに、といった思いはありますが、受け止めがたい気持ちも理解できる。

だから、そのような状況を前にできることは、福島の幸は美味しいと言ってくれる人たちとつながっていくことなのだろうと思うんです」。

人とのつなりが大切なのだと教えてくれたのもサッカーなのだという。

「たとえば2010年のワールドカップ南アフリカ大会でご一緒した岡田武史監督には感謝しかありません。

大会翌年の震災直後に私は、今は経営者の立場から退いているレストラン『アルパインローズ』をサッカーのナショナルトレーニングセンター『Jビレッジ』内にオープンしたのですが、その年から『困ったことがあれば何でも言ってくれ』『来年は西さんのところで宴席をやるから』と声をかけてくれました。

そして実際、’13年の年末に南アフリカ大会のスタッフと貸し切りバスで訪れ、忘年会を開いてくれたんです」。

多忙な顔ぶれが都心からやってきてくれた。理由はひとえに西さんの身を案じたためだ。

その思いは涙を誘うほどに温かく、そのような人の気持ちに触れたことがあるから、故郷についても「福島を案じて、少しでも力を貸してくれる人たちとつながり、その人たちに良質な情報を届けることが大事」だと考える。そして、福島の海についても−。­

「漁業関係者をはじめ海に関わる人たちが少しでも笑顔になれるためには、一つひとつの検査をしっかりとやっていく。安心安全を確保していく。それしか明るい未来にする手段はないのかなと、そう思います」。

もし食が福島の海を盛り上げる力になるのなら、状況が許す限り参加したいと言う。そうして自身と同じように真っ黒に日焼けをしながら遊ぶ子供たちが戻ったとき、福島の海はさらに光り輝く。そのように西さんは考えている。

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kumi / PIXTA(ピクスタ)=写真 小山内 隆=編集・文

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